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062.カラオケ(火原和樹/土浦梁太郎/金澤紘人/天羽菜美/日野香穂子)

「いえー」
歌い上げた後、拳を振り上げた火原に、香穂子と天羽が拍手喝采。天羽は鳴り物も持っているので、余計に派手な拍手となる。
「次、誰ー?」
火原はマイクを座っている面々に向けたが、名乗りはない。
「あ。予約入ってませんよ」
機械の表示を見て香穂子がすかさず指摘する。
「えっ。誰も入れてないの? っていうか、土浦歌ってないでしょ。ホラ、選びなよ」
ぽんっと分厚い本を放られた土浦は、むっとした表情を隠さずにそれを受け取ったが開く気配はない。ちなみにむっとしているのは、本を放り投げられたからではなく、ここへ無理矢理つれてこられたからである。
カラオケルームに入ってから三十分。土浦の眉間の縦皺は消えることがない。
そして、ここにもう一人やる気のなさそうな、やや憮然とした表情の人物がいる。
「金やんも! せっかく来てるんだから歌わなきゃ!」
そう言って、こちらには天羽がばさっと本をその膝の上に載せる。
「好きできたわけじゃないんだがな。お前らに強引に引っ張られて来ただけだぞ、俺は」
そう言ったのは金澤である。
膝の上の本には見向きもしないで、金澤はズボンのポケットからタバコの箱とライターを引っ張り出し、一本タバコを取り出したところで、再びタバコを箱の中に戻した。さっきからこの動作の繰り返しが多い。タバコを吸いたいのだろうが、学生ばかりがいる中で吸いにくいようである。
「いーじゃん! 金やん暇そうだったし! たまには生徒と交流を深めなきゃ!」
「んなもん、校内だけで充分だろうが」
天羽と金澤が言葉の応酬をしている間、その向かいでは土浦と火原とが押し問答している。
「楽しいよ~? 一度歌ってみたらやみつきになるって!」
「俺は楽しいとは思いませんから。楽しいのなら火原先輩が存分に堪能してください」
「そんなこと言うなよー。みんなで楽しむのがいいんじゃないか。ねっ、香穂子ちゃん」
同意を求められた香穂子もコクコクと何度も縦に首を振る。
「ほら、香穂子ちゃんだってそう言ってるし」
ちらっと横目で土浦は香穂子を見る。
「香穂子ちゃんも土浦の歌、聴いてみたいよねー」
「聴いてみたいです!」
土浦の冷めた視線にめげず、香穂子は更に強く頷いた。
「…………………………」
土浦は手の中の本を、香穂子へ何も言わずに押しつけた。ずしりと重いそれを香穂子は受け取ってしまい、わずかばかり肩を落とした。
「土浦~~」
火原のやや非難めいた口調を土浦は呟くような声で遮った。
「え?」
火原と香穂子の声が重なる。
「だから、そこから探し出して入れろって言ったんだよ。……………一曲だけ、歌ってやる」
続けて土浦は曲名を口にした。
「やった! さっすが、土浦!」
拳を軽く土浦の腕にぶつけて喜ぶ火原。香穂子は急いで土浦の言った曲を探すべく本を開いた。
リモコンで曲の番号を入力すると、さほど待たずに前奏が流れてきた。
「おっ。やっる~!」
曲が流れ出してきて、その曲がなんなのかわかった天羽が囃し立てる。それを無視しておいて土浦は座ったまま歌い始めた。
「おー………」
サビのところで火原が感心した声を上げた。香穂子も同じ声を上げる。
「上手いわ……」
感心したのは天羽も同じだったようだ。天羽の呟きに香穂子は頷いた。
土浦は歌が上手かった。歌唱力がある。腹の底から出される声に聞き惚れる。
歌い終わると、さっきよりも大きな拍手喝采。
「土浦、どうだ? 声楽も始めてみないか?」
ニヤニヤとした金澤の声もかかる。
「遠慮しておきますよ」
にべもなく断ると、これで義理は果たしたと言わんばかりにマイクをテーブルの上に置いた。
「えー。もう歌わないの?」
「一曲だけだと言ったがな、俺は」
上目遣いの香穂子をばっさりとその言葉で切り捨てる。
「そう言わず歌ってやれば。せっかく上手いんだし」
金澤が割って入ってくる。
「それなら金やんが歌ってもいいってことになる」
「何でよ」
「声楽やってたんだから」
「あっっ。そーだ! そうだよ!!」
天羽が手を打った。
「そうだそうだ。そういう理屈なら金やんも歌わなきゃ!」
「なんだそりゃあ」
「土浦君だって歌ったんだもん!」
天羽は引くつもりはない。その上に火原が「金やん歌いなよー」と詰め寄ってくる。無言で土浦が睨みつけるように見ている。そして香穂子がじぃっと期待する目を向けてくる。
結局。
金澤は観念した。四対一という圧倒的に不利な状態にもかかわらず、いつもの調子で切り抜けようとしたのだが、逃げ場のない狭い部屋のこと。タバコに立つ隙も与えられず、それどころかそのタバコを天羽に取り上げられてしまった。
タバコ一箱くらい買い直せば良いだけの話だが、カラオケを歌うことの質として奪われたもの代わりを買うのもなんだが癪なような気がした。
「うるせぇなぁ、もう。わーかったよ。歌えばいいんだろう、歌えば」
「よっしゃー!」
「そうこなくっちゃ! 何入れる!?」
うきうきとリモコンを握った天羽に、曲の番号を伝えた。
画面の上に出たタイトルを見て、一瞬全員が黙る。
「…………何故、急に黙る」
金澤のその質問は、前奏にかき消された。前奏が始まると自然と手拍子も始まる。だが、手拍子をしている面々の視線はモニターの画面に吸い寄せられている。そこには曲名と作詞作曲者の名前が出ていた。
「………………知ってる?」
ぼそ、と火原が土浦に顔を寄せて訊いた。土浦は「いえ」と否定した。香穂子も首を傾げている。天羽は唇に親指を当て自分の記憶を探っているようだった。
間もなく金澤の歌声が響き始める。
その途端、四人は思考を停止した。誰しもが口を半開きにして金澤を見ていた。手拍子も疎かになっていた。
それほど。
金澤の歌声はよく響き、通っていた。聞き惚れるほどに。
「…………………あっ」
サビのところへ来て、火原は唐突に声を上げた。土浦が片方の眉だけを上げながら火原の方を向く。
「この歌、聴いたことあるや。テレビ、だったかなぁ。過去二十年間のヒットランキングとかいう番組でかかってた」
察するに、この歌は金澤が今の火原や土浦たちと同じ年の頃に流行ったものなのだろう。
「ねっ、香穂子ちゃんもここなら聴いたことない!?」
同意を求めた火原だったが、香穂子の視線は金澤に向けられたままである。
「……………………ええっと………」
「間が悪かったですね」
土浦の言葉に火原は小さく頷いた。
金澤が歌っている間中、その姿を見つめていたのは天羽も同じだった。圧倒的な歌唱力、伸びやかな声。上手い、なんてものじゃない。声楽でコンクールに出たのも伊達じゃない。
それは認めるが。
「すっっっごい! 金やん!!」
「思わず聞き惚れちゃった!」
香穂子も天羽も頬を僅かだが上気させて熱く金澤に語りかけている。
語りかけられた金澤はと言えば、歌い終わるとさっさとマイクを放り出し、これで義理は果たしたといわんばかりにソファーに体を預けた。
「あとは勝手にやってくれ」
「え―――――。もっと聴きたい~」
「他にも歌って欲しいー」
天羽と香穂子のおねだりにも耳を貸さない。
そのやりとりをぼんやり見つめていた火原の目の前を、土浦の手が通っていく。その動きを目で追うと、土浦は自分から遠くなっていたリモコンを手元に引き寄せていた。
「土浦?」
「歌いましょう」
土浦の低い声が、何だか妙な凄味を帯びていたような気がして、火原は「…………あ、うん」としか返せなかった。

拍手[3回]





ヴォーカル集発売記念!(笑)金やんが美味しいトコ取りをしてしまうお話。本編ではありえないメンバーでのカラオケ大会。火原っちはともかく、つっちーはカラオケなんて気恥ずかしいとはっきり言っていたし、金やんは歌っていた過去をひた隠しというか語ろうとしなかった人ですからね。この二人が人前で歌うこと自体前代未聞(そこまで言うか)。本当はこのメンバーに月森も入れてLR対決をさせたかったのですが、それこそ月森だとカラオケで何を歌うのかちっっとも想像出来なかったので、あえなく没。火原っちは流行りモノは大概歌えそう。つっちーはああ言っている割に、歌唱力の必要な歌をさらっと歌ってそう。ミスチルとか。金やんは青春時代の歌(笑)。高校生の皆さんはついていけないか、懐メロの番組で聴いたことある気がする! なんて言ってそう。ジェネレーションギャップに密かに落ち込む金やん…………。女の子はやっぱり流行りモノはちゃんと抑えてる。天羽ちゃんあたりもすごくうまそう。香穂子と二人でデュエットなんかさせたら、絶対可愛い!今回はちょっとお遊び気分で書いてみました。ラブ話ではないのでご注意。挙げ句に意味もあまりありません~~。

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