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嵐のまえに

「おい、日―――」
 名前を呼ぼうとして、香穂子が誰かと話していることに土浦は気がついた。
 昼休み。人でごった返す購買部に向かう途中。
(誰だ?)
 香穂子の隣に、見知らぬ男。明るい色の髪、耳にピアス。優男風である。人混みの中でそれだけを見て取れるのは、その男が周囲より頭が飛び出ているからだ。
 土浦と同じように、見知らぬ男を周りの生徒達も注目している。その割合には女子が多い気がする。確かに、人の注目を浴びそうなタイプではあるが、どうやらあまり知られている顔ではないらしい。
 あまりにじっと見ていたせいだろうか。
 いくつものの視線を受けながらも、その男は土浦を振り向いた。唐突に目があってぎょっとする。
「あ、土浦君!」
 男の視線を追って気がついたのだろう。香穂子が土浦を見つけて笑顔を見せる。
 いや、それまでも笑顔だった。
 それが―――いまいち面白くない。
「よう」
 だが、それを押し隠して土浦は二人に近づいていった。
「日野さん、友達?」
「あ、うん。土浦君」
 否定せず、あっさり紹介される。
「土浦君。こちらは加地君。うちのクラスの転校生」
「こんにちわ」
 加地は愛想良く挨拶をしてきた。
「どうも」
 愛想良くとはいかないが、土浦も挨拶で返す。
「土浦君はね、ピアノ弾くんだよ。すっごい上手なんだ。今度、聴いてみて」
「へえー」
 不躾な視線が土浦のを上から下までなぞる。
「加地君はね、なんとヴィオラ奏者なんだって!」
 これには単純に驚いた。人のことは言えないが、何故普通科に? と思う。
 その疑問がそのまま顔に出たのか、それともそう問われることはいつものことだったのか、加地は先回りして土浦の疑問に答えた。
「ほんの趣味程度でやってるだけだから」
「でも、嬉しいよね。普通科に同じように楽器を演奏する人がいるって」
 香穂子が本当に嬉しそうに笑うので、つられて笑っていた。
 だが、その笑みは次の加地の言葉に強張る。
「言っておくけど、日野さんの演奏には及ばないよ。あんなに心惹かれるヴァイオリンの音色はこれまでに聴いたことがないから。一瞬でファンになっちゃうほどの音色は」
 あからさまに香穂子に好意を示している言葉。香穂子はそれに気がついているのかいないのか、「もうそれは止めてってば!」と加地に抗議している。察するにもうそれは何度も言われたことなのだろう。
「だって本当のことだからね」
 香穂子の反応が楽しいのか、加地は更に言葉を重ねる。
 土浦は二人のやりとりを聞きながら、苛立ちを覚え始めていた。それが表に出なかったのは土浦が我慢強かったからではない。その場に割って入る別の声があったからだ。
「あ、いたいた! 加地くーん!」
 その大きな声には聞き覚えがある。
 案の定、天羽がこちらへ駆け寄ってくるところだった。
「良かった! どこへ行ったかと思ったよ。取材させてくれる約束だったでしょ」
「そうだったね。ごめんごめん」
「じゃあ、この人はちょっと借りるね」
 香穂子と土浦に断って、天羽は加地を連れてあっという間にその場から去っていった。
「………土浦君」
 二人を見送りながら、香穂子が話しかけてくる。
「何で、そんな不機嫌そうな顔してるの?」
 驚きを隠せないまま、香穂子を振り向いた。香穂子は既に土浦のことを見ていた。
 何故、ばれているのだろう。負の感情は表に出していないはずだったのに。
「わかるよー。土浦君、わかりやすいもん。もう、むやみやたらに喧嘩ふっかけたりしないでよ」
「なんだそれ」
「だって、月森君とも険悪になってばっかりじゃない。こっちは気が気じゃないんだからね」
 土浦は僅かに呆気にとられた後、その手でぐしゃぐしゃと香穂子の頭を乱した。
「月森は月森。加地は加地。関係ないし、そんなことしねぇよ」
「ちょっと、もー」
 土浦の手を逃れた香穂子は急いで、乱れた髪を手で直す。
 その様子を笑って見ながら土浦は思う。
(全く―――これだから侮れないんだ)
 隠していたはずのことに気がついてしまう。肝心なことには気がつかないくせに、そういうことには敏感で。
(だから、俺がさっきまで加地と話していたお前を見て、面白くないなんて思っていたことには、気付かないんだろうな)

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土浦vs加地。日記ブログからの再録。普通科でヴィオラ奏者で香穂子と同じクラスというだけで、月森以上に対抗心を燃やしそう(でも、一番のライバルはやっぱり月森)。この1話を書いたことで、ライバル話を他にも書きたくなって勢いよく書いた。土浦→香穂子は確実だけど、香穂子はどう思っているか不明。ゲーム内容を考えると、誰かに傾いていることはないんだろうけども、男性陣はそれなりに香穂子の事を気にしているといいよねぇ。

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