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048.日焼け

 朝の通学路。
 見慣れた後ろ姿を見つけて、土浦は距離を一気に詰めた。
「よぉ、久しぶりだな」
 同時に香穂子の頭に手を置く。
 頭を抑えられた香穂子は少しだけ首を動かして、土浦を見た。
「おはよう。久しぶりだね」
 夏休みが終わって最初の登校日。夏休みの間に全く会わなかったわけではないが、頻繁に会っていたわけでもない。部活に出ていた土浦とヴァイオリンの練習に来ていた香穂子が偶然会う程度のもの。それが、土浦と香穂子の今の関係。
「お前、焼けたな」
 香穂子の横を歩きながら、記憶していた肌の色より少し黒くなっていることに気がつく。
「そうなの。先週あちこち出回ってたらこんな結果に。やっぱり目立つ?」
「目立つってほどでもないけど、見りゃわかる」
「そうだよねぇ」
 香穂子は自分の腕を目の高さまで持ち上げて、じっと見つめる。
「それに間抜けなことにね、見てこれ」
 持ち上げた腕にかかる制服の袖を、ヴァイオリンケースを持った手で引っ張り上げる。
 半袖の下に隠れていたのは、真っ白な素肌。
 何故か眩しく見えて、思わず目を逸らしてしまった。だが、その白さは既に土浦の目に焼き付いていた。
 普段は見ることのない部分。それが土浦を戸惑わせる。
「くっきり半袖の後が付いちゃって………って、土浦君、聞いてる?」
「聞いてる」
 正面を見据えたままぶっきらぼうに応える。
「日焼け止め塗り忘れてたんだよね」
 まだ、香穂子は袖の下を晒したままだ。
 早く隠して欲しい。
 土浦はそればかりを考えている。
 そうでなければ、よからぬことに思いを馳せてしまいそうだからだ。
「制服の袖より内側で良かったけど、しばらく肩を見せる服は着られないな」
 土浦が聞いていようがいまいが関係ないことをぼやいている。
 ようやく袖を戻して手を下ろしたので、ほっとした。思わず安堵の息を漏らしてしまう。
「何? ため息? どうかしたの?」
「いや何も」
 言えるわけがない。
「土浦君は、どこか行ったの? 夏休み。真っ黒になってるのはサッカー部の練習のせいだけ?」
 サッカーは年中外でやっているから、一夏で目立つほど黒くはなったりしないが、更に増したとは思う。
「サッカー部の連中と海に行ったりはしたけどな。その程度だ」
「海かぁ。私、今年はちょっと立ち寄っただけで、遊びには行かなかったなぁ………。プールには行ったんだけど。行きたかったなぁ」
 心底、残念そうだ。
「一緒に行けば良かったな」
 ぽろっと口から零れてしまった言葉に、慌てた。そして慌てたことにまた動揺する。
 だが、香穂子は何も気にしていないようで「そうだね」と頷いただけだった。今度は香穂子に気取られることのないように、安堵する。
 ふと脳裏に香穂子が海に居る姿を思い描いていた。
 セパレートの水着を着て、髪を頭の上でまとめて襟足を晒している。その首筋や背中は眩しい素肌―――。
(って! 何想像してんだよ!)
 ホッとした途端に、これである。
 体温が上昇するのがよくわかった。
 多分、顔が赤くなっているはずである。
「土浦君?」
 気づいたのか、香穂子が下から覗き込んでくる。慌てて顔を背けた。赤い顔など見せられない。
「どうしたの、本当に」
「何もないって」
 何もないことはないが、もちろん言えることではない。
「えー、気になるよ」
 香穂子が身を寄せてくる。
「気にすんな」
 土浦は、自分にとっての一歩分、香穂子から離れた。
「気になる」
 香穂子はめげずにまた寄ってくる。
「気にするなって」
 土浦も更に距離を置く。
 香穂子が近寄ってきては、土浦が離れる。
 このやりとりは教室へ入るまで続いたのだった。

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ちょっと土浦君がアホっぽい………ごめんなさい。でも書いていて楽しかった。特に最後の香穂子との延々と続くやりとりとか。バカップルぽいけど、まだ付き合っているとかそういう関係でも何でもありません。ちょっと仲のいい友達。でも土浦は意識してます。


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