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鞄の中には小さな包み。
光沢のある赤いリボンがかかっていて、綺麗にラッピングされた箱。
大事に、そっと鞄の中に入れてきたが、
志水の動きに合わせてそれは微かに動いているようだ。
きゅっと、鞄を握る手に僅かに力を足す。
大事に、大事に。落としてはいけない。
待ち合わせの場所までもうすぐ。
今日、最初に言う言葉は決まっている。
「おはようございます」
そして、
「お誕生日おめでとうございます」
今日は、志水にとって大切な人が生まれた日。
特別な一日。
待ち合わせの場所が見えた。
(あ………)
そこには既に志水のことを待っている人がいた。
今日こそは、先についていて待っていようと思ったのに。
「志水くん!」
白い息を吐き出しながら、彼女は大きく手を振っている。
駆け出したい気持ちを抑えて、志水は一歩一歩確実に歩んでいく。
そっと、そっと。
口元には笑みが浮かんでいるのが自分でもわかっている。
逢えるだけで嬉しい気持ちはいつもかわらない。
だけど、今日はいつも以上に嬉しい。
(こんなに嬉しく思っている気持ち、伝わるかな………)
そうは思うが、志水にだって充分に伝えることは出来るかはわからない。
伝える言葉も、音も、何もかもが足りないのだ。
それでも伝えなくては。
ありったけの言葉と音で。
志水に表現できる全ての手段で。
出逢えた喜びを―――。
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