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加地の背中を見送りながら、志水はゆっくりと首を傾げた。
「結局、何の用だったんだろう………?」
わざわざ練習室にいた志水を探し出して話していったことは、志水にとって意味のないものだった。
「日野さんの好きな人って知ってる?」だの、「日野さんを好きな人ってたくさんいるのかな?」だの。
おおよそ、志水に訊くことではない。
だからそう言った。
「日野先輩に直接訊いたらどうでしょう?」
そうすると、加地は答えた。
「訊いたけどちゃんと答えてくれなかったし、こういうことは周りにも訊いたほうがいいと思うんだよね」
そして―――。
それから加地はいろいろと話して聞かせてくれたのだ。
香穂子を初めて見たときのこと、その時に聴いた音色のこと、学校で再会したときの喜び。
それはそれは事細かに。
実は途中から眠くなってきて半分くらい聞いていなかったのだが、加地はそれに気づかなかったのか、気づいていても気にしていなかっただけなのか、構わず話し続けていた。
「変わった人だなぁ………」
傾げていた首を元に戻して、中断していた譜読みを再開する。
それに、今更話して聞かされるような話ではなかった。
香穂子の音色が綺麗で印象に残るものであることはもうとっくに知っている。その音色を奏でる香穂子が素敵な人であることも。
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