忍者ブログ
  ▼HOMEへ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ささやかなハッピーバースデー

「柚木様~」
「お誕生日おめでとうございます」
「これ、大したものじゃないんですが、お祝いの気持ちです」
「柚木様のことを想って選んだんです」
「受けとってください!」
 普通科、音楽科を問わないファンクラブのメンバーに囲まれた柚木は極上の笑顔で差し出されたものを受け取った。
「ありがとう。大事にさせてもらうね。でも、こんなにしてもらわなくても良かったのに。君たちのその気持ちだけで僕は十分だから」
 柚木の言葉を聞いて、周りにいる全員が蕩けそうな表情になる。
「ああ………もう下校の時刻だね」
 下校を知らせるチャイムが校内に響きだしていた。
「それでは、失礼します!」
 綺麗にハミングした彼女たちが一斉に小走りで柚木の元を去っていく。
 柚木もそれから一歩遅れて正門へ向かって歩き出した。
「お見事ですね」
 正門前で香穂子が待っていた。今の一部始終を見ていたらしい。
「生意気な言い方だな」
 ファンクラブのメンバーに見せていた笑顔とはがらりと違った笑みを見せる。言葉遣いも変わる。
 香穂子の前では猫を被る必要がないからだ。
「そうですか? 心から感心しているだけですよ」
 柚木は笑みを消し、片方の眉だけつり上げた。いつもの香穂子と若干様子が違う。言葉に刺が混じっている。
「さ、帰りましょう」
 柚木が表情を変えたことに気づいているだろうに、香穂子は何事もないかのように柚木を促す。
 正門前には柚木を迎えに来たリムジンが既に待っていた。
 二人を乗せると、静かに走り出す。
「まさか、嫉妬しているのか?」
 揺れを感じさせない車内で柚木が問う。その顔には笑みが戻っていた。
「まさか」
 正面をまっすぐ見つめていた香穂子は、柚木に負けない笑みを浮かべてあっさりと柚木の言葉を否定する。
「ファンクラブの人たちから慕われていて、私が妬まれていることなんて日常茶飯事ですから今更そんなことに嫉妬したりはしませんよ、柚木様」
「ふん。そう」
 笑みは浮かべたままだったが、内心面白くない。
 以前は、いちいち赤くなったり青くなったりして見ているこっちを楽しませてくれる反応をしてくれていたというのに。
「それに」
 香穂子が短く言葉を継いだ後、素早く動いた。
 瞬く間に触れて離れただけの、キス。
 柚木は笑みを浮かべたままで、動きを止めていた。
「こんなことが出来るのは私だけですからね」
 至近距離でとびきりの笑顔を見せた香穂子は、とても満足そうだった。

拍手[2回]

PR

Copyright © very berry jam : All rights reserved

「very berry jam」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]