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嵐のまえに

「日野さん、ちょっといいかな?」
 笑顔の柚木に呼び止められ、香穂子は恐る恐る柚木のもとへと歩み寄る。途中で柚木のもとから離れる加地とすれ違い、加地にもにっこりと微笑まれてしまった。
「何でしょう?」
 上目遣いで柚木の様子を探る。
 誰にもその本性を悟らせない完璧な笑みは、香穂子には通じない。本性を知っているからこそ近寄るのも恐る恐るなのだ。
「何だあいつは」
 笑顔のままで、声だけがトーンを落としている。それが怖い。
「うちのクラスの転入生です」
「その答えはわざとか?」
「そんなこと言われても、他に答えようがないですし………」
 ちらっと香穂子は加地のほうへ視線を向けた。加地は屋上のドアから校舎内へ入ろうとしているところで、香穂子の視線には気がつかなかった。
「まったく気にくわないな」
 柚木の声に、視線を戻す。柚木の顔からは笑みが消えていた。
「気にくわないって………加地くんのことですか?」
「他に誰がいる」
 不機嫌さを隠そうともせず、柚木は腕組みをした。
「見てくれに欺されるなよ、日野」
「はぁ………」
 香穂子が屋上へ上がってきたとき、柚木と加地が向き合って何か話しているところだった。二人は共に笑顔でとても穏やかに見えたのだが、どうやら柚木は内心穏やかではなかったらしい。
 加地に一体何を言われたのだろう。
 気になるが、訊けない。
「まったくお前といい、あいつといい、普通科は面倒な人間が多いな」
「面倒、ですか?」
 よほど情けない顔をしていたのだろうか。柚木が鼻で笑った。
「ああ、面倒だよ」
 言うやいなや、柚木は香穂子の腕を掴んで引き寄せる。
「まぁお前の面倒なんて、ものの数にもならないけどな」
 耳元で囁かれた言葉に香穂子は一瞬で顔を赤くする。
 そんな香穂子をすぐに解放して、柚木はさっさと屋上から出て行ってしまった。
 残された香穂子は両の頬を手で押さえて、熱が引くのをじっと待つ―――。

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柚木vs加地。ブログからの再録。ここの対決は水面下で行われそうで怖い。公式で出ていた柚木に対する加地のセリフが挑戦的だったのが印象的。加地君、怖いものナシなんでしょうか。人好きのするということは怖いもの知らずという一面があるからかもしれません。

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