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073.野球部

「はぁ………」
 森の広場で火原がベンチに座っているのが見えたので、驚かそうと背後から近寄ったらため息が聞こえてきて、声を掛けるのを躊躇ってしまった。
 ただ、そのため息は悩ましげというより、何かうっとりした感じだったので、声が掛けづらいということでもなさそうだ。
「火原先輩」
 驚かすのはやめて、普通に名を呼ぶ。
「あ、香穂ちゃん」
 肩越しに火原が振り向いた。
「どうしたんですか? ため息が出てましたけど」
「あ………うん。ねぇ香穂ちゃんは知ってる?」
 火原は続けて、とある有名な野球漫画のタイトルをあげた。もちろん香穂子は知っていた。というか、知らない人の方が少ないと思う。それは単なる熱血野球漫画ではなくて、恋愛要素の多いに絡まった物語で、途中、涙せずにはいられない。
「おれ、つい最近知ったんだけどね」
 それには驚きだ。火原のことだからとっくに知っていそうだったのに。
 これが月森や志水ならわからないこともないのだが。
「友達が全巻貸してくれて、一気に読んだんだ」
「面白かったでしょう?」
「うん。すっごく面白かった! 最後はハッピーエンドで良かったけど、途中で兄ちゃんのほうが亡くなっちゃうところはめちゃめちゃ泣いてさ。でも、それがあったから最後でもっと感動したんだよね。あとさ、あの台詞がさ」
 すかさず、香穂子も口に出して言う。それは火原の声とぴったり重なり合って、火原はいったんびっくりしてから笑った。
「あれ、いいよねー! やっぱりそこだよね!」
「ああいうの、言われてみたいです!」
「おれもああいうの言ってみたかったな………」
「え?」
「野球部に入ってたら、言えたよね。好きな子にそういうこと言えたら最高だよね。それで大喜びして貰えたらすごく幸せだと思うんだ。だけど、トランペットじゃどこへも連れて行けないよ」
 火原は空を仰いだ。その横顔を香穂子は見つめる。
「でも、先輩は野球よりトランペットのほうが好きでしょう?」
「うん」
 空から香穂子へと視線を転じて、火原は力強く頷いた。
「わかってるよ。そんなことで野球部に入ってれば良かったなんて、真剣に野球やってる人たちに失礼だもんね」
 香穂子は火原の横に腰掛ける。火原の視線はその動きを追う。
「先輩」
「何?」
「好きな人にどこかに連れて行って貰うよりも、一緒に頑張ってどこかへ行けるほうがわたしは嬉しいですよ」
 いったん言葉を切ると、火原は黙って続きを待っている。
「野球だったら、応援とかお手伝いとかは出来るけど、同じグラウンドには立てないでしょう? だけど、トランペットなら………ヴァイオリンでもいいですけど、楽器だったら、同じステージに立てるんですよ。一つの音楽を奏でるために一緒に練習して、その先へ続く場所へ一緒に行けるんです。わたしはそのほうがずっといいです」
 コンサートで一緒に演奏した記憶はまだ新しい。一緒にたくさん練習して、真剣にぶつかり合って、そうやって作った音楽。すぐ側で響き合った音。
「ありがと、香穂ちゃん」
 火原が優しく笑っている。
「ごめんね。おれの戯言に付き合わせて」
 香穂子は首を横に振ってから、微笑んだ。
「あのさ、香穂ちゃん。おれ、今香穂ちゃんとすっごく合奏したい。いいかな」
「喜んで」
 それぞれに楽器の準備をして構える。
 曲を決めてから、いざ弾こうという時になって火原が声を上げた。
「あ、あのね、さっき言ってた好きな子ってもちろん香穂ちゃんのことだからね!」

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100のお題最大の難関、野球部でした。それこそ、コルダにはちらりとも出てこない野球部。そもそも星奏学院には野球部があるのかすら怪しいほどなんですが(いやまぁあるだろうとは思いますが)。しかし、野球に興味があるのは金やんのみ。とはいえ、金やんが好きなのはプロ野球。野球部とは何の関係もありません。というか、金やんに限らず誰も………。こんななのに、何を書いたらいいのやらさっぱりです。で、書いたのがこんな話。野球部なんて全く出てきません。出てきた野球漫画は懐かしのなんとやらで出てくるようなやつですが、数年前に映画化されたこともあったし、まぁ彼らの学生生活の中に出てきてもおかしくないかな~と。その前に最近の野球漫画をよく知りません。

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