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嵐のまえに

 香穂子は腹立たしい気持ちを抑えられなかった。気持ちがそのまま足取りに表れている。有り体に言えば、足音荒く廊下を突き進んでいた。
 原因は一つ。
 転校生のせいだ。
 加地葵。香穂子のクラスにやってきた転校生。人当たりがよく、転校してきてまだ三日だというのに、早くもクラスにうち解けていた。特に女子の人気が高い。香穂子の友人も騒いでいた。
 確かに話をしていると楽しいし、面白い。社交的な性格のせいか話題も豊富。一緒にいて飽きない人。
 そして何故か香穂子にやたらとまとわりついてくる。何故か懐かれている。
 悪い気はしないが、ちょっと困る。
 しかし、それで腹立たしくしているわけではない。
 彼が漏らした言葉が香穂子のかんに障ったのだ。
 曰く、「王崎先輩っていい人だよね」。
 普通なら「そうよね」と同意するところだ。むしろ怒りを覚えるような言葉ではない。だが、加地は違った。
 それは、含みのある言い方だった。その後に続いた言葉で香穂子はそれを確信した。
「なんかちょっと胡散臭いよね」
 即座に言い返していた。
「加地君に、王崎先輩の何が分かるって言うのよ!」
 加地には昨日、王崎を紹介した。学校に来ていたからだ。
 たった一日。しかもその時は大した話もしていないというのに、加地に王崎のことがどれだけわかっていると言うのか。
 王崎がいい人なのは当たり前のことだ。この事実は動かしようがない。そしてそんな王崎を香穂子は好きだ。誰に対しても真正面から向き合って親身になって、周りの人のことを思ってばかりの優しい人。自分のことをもっと考えたらいいのに、と見ているこちらがやきもきしてしまうような人。
(胡散臭いだなんて、よくも言えたものだわ!!)
 怒りにまかせて前を良く見ずに歩いていたから、廊下の角を曲がったときに勢いよく誰かにぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
 反射的に謝ってからぶつかった相手の顔を見て驚く。
「どうしたの、香穂ちゃん」
「王崎先輩! 今日はどうしたんですか!?」
 連日、高校を訪れることはそうない。多忙な人なのだ。
「ちょっと昨日忘れ物をしたから。それより、すごい勢いで歩いていたみたいだね。何かあったの?」
「………ちょっとだけ」
 でも、まさか王崎に事の顛末を話すわけにもいかないから言葉を濁したのに、気がつけば王崎から聞き出されていた。
 話を聞き終えた王崎は笑っていた。
「なんだ、そんなこと。香穂ちゃんが気にするようなことじゃないよ」
「そんなことって………気にしますよ! 先輩が悪いように言われるのは気分良くないですから」
 王崎はさらに笑みを深くした。
「ありがとう。君にそう言って貰えると嬉しいよ。だから、他の人が俺のことをどう思って言おうと構わないよ。そういう印象があるのは残念だけど、世の中にはいろんな人がいていろんな感じ方をする。それだけのことだから。きっと加地君は俺に思うところがあったのだろうし」
 最後の一言はよく意味がわからなかったが質問しないことにした。王崎がいいのだということを香穂子がいつまでもぐずぐずと言っているのもどうかと思ったのだ。
「………わかりました。じゃあ、加地君の王崎先輩への印象を変えるように私が頑張ります」
「………じゃあ、宜しくお願いするよ」
 妙な間が気になったが、考えないことにした。ともかく王崎が笑っていたから。今はそれでいい―――。

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王崎vs加地。難産。ブログの話を一つに纏めるのに全員分話が欲しくて、書き下ろしたんですけども。すっごく加地が哀れな気がしてきました………。テーマがvs加地だっただけに、そもそも可哀想な立場だったんですが、とうとう香穂子に嫌われた………。無粋を承知で加地の心境を書いてしまえば、王崎先輩のことを嬉しそうに話す香穂子が面白くなくて………とかかなー。ちょっと加地のイメージと違うかも。で、香穂子に怒られた後、かなり落ち込んで反省したりして。………ちょっと火原っぽい、か?
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