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「学級委員になっちゃいました………」
音楽準備室へそう言いながら入ってきた香穂子の肩は落ちていた。
三年生になったばかりの日。音楽科への転科の話もありながら、結局香穂子は普通科に在籍したままヴァイオリンを続けることにして、決意も新たにしたばかりのところである。昨日会ったときには、前向きで微笑ましくなる熱意を語っていたものなのに、一日でこの肩の下がりようである。対比が面白くて、笑い出しそうになるのを金澤は堪えなくてはならなかった。
「そりゃあ難儀なこった」
実際はそこまで難儀だろうと思っていない。そして、それは香穂子にも伝わったようで、上目遣いに恨めしげな視線を向けてくる。
金澤は苦笑して、本心を語る。
「コンサートを四回も成功させたり、オケのコンミスもやり遂げたお前さんが、学級委員ごとき大したことじゃないだろ」
「………それとこれとは全然違います」
「違わないだろ。人をまとめなきゃならないのはどっちも一緒だ。お前さんなら成し遂げられるさ」
香穂子は腑に落ちない顔をしたままである。
金澤はその頭にぽんっと、少しだけ力を込めて手のひらを乗せる。
「いいじゃないか。学級委員になったら、何かとお前さんにいろいろ頼みやすくなるからな」
「それって先生の雑用を請け負うことが増えるってことじゃないですか」
「不満か?」
「そりゃ………」
「それだけお前さんに会いやすくなって、俺はいいけどな」
一瞬香穂子の顔から表情が消えて、その後一気にかあっと赤くなる。
照れすぎである。
あまりの素直な気持ちの表れに、言った当人の金澤も気恥ずかしくなる。香穂子と共にいることが増えて、若さ故の熱さに少しは慣れてきたつもりであるが、まだまだ努力が足りないようだ。
しかも。
「そうですね。そう考えたら、学級委員もいいかも」
照れを含んだ満面の笑顔でそんなことを言われたら、恥ずかしさのあまり香穂子の顔を正面から見られない。
自分が言い始めたことであるにも関わらず。
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