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076.スカート

「なぁ、日野サン」
 名前を呼ばれて振り向いた香穂子は怪訝そうな顔をする。
 無理もない。「さん」付けで呼ぶときにはろくな発言をしたことがないからだ。金澤のほうも、ろくな発言ではないことをわかっていて、そう呼んでいる。
 しかしながら、ろくな発言ではないことをわかっていて、そういう発言が得てして香穂子の怒りを買うことをこれまでの経験上わかっていても、言わなければならないことがある。
 だから、金澤は躊躇せずに口にする。
「スカート、短くないか?」
 香穂子の口がぽかんと開けられる。
 金澤の発言が相当予想外だったようだ。
 しかし、金澤の言ったことを理解するに従って、香穂子の表情が変わる。
 もちろん、怒りの表情に。
 それを金澤はある種の感動を覚えながら見つめる。いつものことながら、香穂子の表情の変化は面白い。
「先生の、えっち!!」
 香穂子はそれだけ叫ぶと、その短い制服の白いスカートを翻して、走り去ってしまった。

「えっち、だってよ………」
 胡座をかいた金澤は、そこにすっぽり収まっている猫の背を撫でながらぼやいた。
 誰にも邪魔されることなく一人でいたいときの、金澤の隠れスポットは今日も静かだ。実際のところ、完全に隠れ場所になっているわけではない。香穂子にはもちろんばれている。だが、香穂子もよほどではなければ、ここまで金澤を捜しにくることはない。
「しょうがないよなぁ」
 ため息混じりの言葉に、猫は何も返してこない。撫でられているのが気持ちよさそうに目を閉じている。
「お前もあのスカートは短すぎると思うだろー?」
 返事は期待していなかったが、それに反して「にゃあ」と返ってきた。しかし、それは眠気を伴っていたので、返事をしたというよりも気持ちよくて思わず出てしまった声のようだった。
 構わず金澤は喋り続ける。
「男としてはさー、気になるわけだよ。いろいろと。俺だけならまだしも、他の男も見るわけだろ。それは許し難いよなぁ。そこんとこ、あいつは解ってないんだよなぁ」
 自分のぼやきが香穂子にとっては理不尽であることには充分気がついている。気がついていてもぼやきたくなるのだ。
「かといって、長くなるのもなんというか………」
「何、ぶつぶつ言ってるんですか」
 芝生を踏む足音に気がつかなかった。声のしたほうを見ると土浦の姿がある。
「なんだ。お前さんにも見つかっちまったか。この場所はもう駄目だなー」
 腰を上げようと思ったが、胡座の上で猫が寝息を立てていた。
「別に、俺は金やんを探してたわけじゃないけど。っていうか、こんなとこでいつもサボってたんですか」
「サボってるわけじゃないぞ。いろいろ考え事をだなー」
「考え事するのはいいけど、口に出すのはヤバイんじゃないかと思いますが。怪しい人ですよ」
 多分土浦は、単に独り言を言っているのが怪しいと言っているだけだと思うが、その内容まで怪しいと言われているような気がしてしまう。なので、追い返すことにした。
「ほれほれ。もう行った行った。働き疲れている教師を思いやるのも生徒の大事な仕事だぞー」
 金澤の言い分にかなり不満があるようだったが、土浦はその場を去ろうと踵を返す。
「あー、ちょい待ち」
「何ですか?」
 面倒くさそうに土浦が振り返った。
「お前さん、女子のスカートが短いのをどう思う?」
「はぁ!?」
 突拍子もなかった。質問してから、金澤もそれに気がついた。土浦が声をひっくり返すのも無理はない。
「すまんすまん。気にするな。もう行っていいぞー」
 あっさりと質問を引っ込めて、今度こそ土浦を手で追い払った。
 大体、そんなことを訊いてどうする。
 充分土浦が離れたのを確認してから金澤はため息を吐き出した。
「なーんか、振り回されてるよなぁ」
 天を仰ぐと、雲一つ無い青が金澤の上に広がっていた。

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掌編続き。しかも意味なし。スカートというお題をどう扱うかと考えていたら、香穂子の「えっち」というセリフが浮かんで出来たもの。ちなみに金澤で書き上げましたが、最初は土浦で考えていたんですよね。でも、オヤジ臭さが出るようなシーンになる気がしたので金やん抜擢(わー不名誉)。土浦が後半登場したのは、だからというわけではないですよ。

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