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  <title>very berry jam</title>
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  <description>Last update　2017/07/28／
如月響也×小日向かなで「背中」</description>
  <lastBuildDate>Thu, 27 Jul 2017 15:42:12 GMT</lastBuildDate>
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    <title>背中</title>
    <description>
    <![CDATA[<div><div>　響也が歩くリズムに合わせて、かなでの足がゆらゆら揺れる。揺れる度に開放感に溢れる足の裏が夜の空気に触れて気持ちが良い。親指と人差し指の間は少しヒリヒリとするけれど。</div><div>「重くない？」</div><div>　響也の後頭部に向かって問いかける。即時、不機嫌そうな響也の声が返ってくる。</div><div>「余計な心配すんなって、何度言ったらわかんだよ」</div><div>　不機嫌そうというか、少なくとも機嫌が良いわけではないだろう。</div><div>　それがわかっていても、かなでには響也の背中が心地良い。</div><div>　響也の肩に載せた手や、触れている太ももの部分から伝わってくる響也の声の響きがかなでの中で震える。その震えが心地良いのだ。</div><div>　だから、さっきから何度も話しかけては返事をして貰っている。</div><div>「花火大会、途中で帰ることになってごめんね」</div><div>「どっちかっていうと、かなでが楽しみにしてたんだろ。残念なのはかなでのほうだろ」</div><div>　菩提樹荘までの道のりは、今は静かなものだが、さっきまでは背後からドォーンという重低音が追いかけてきていた。ドォーン、パラパラパラ。振り返ってみればもしかしたら花火を見ることが出来たかもしれないが、背中に負われている状態で、自分だけ花火を見るというのは気が引ける。</div><div>　かなでのほうが、なんて言っていた響也だが、人ごみの中をわざわざ出かけていこうなんて思ったくらいには、響也も花火大会を楽しみにしていたはずなのだ。</div><div>　それを途中で切り上げることになったのは、かなでのせい。</div><div>　今日の花火大会を、かなでもとても楽しみにしていた。気合いも入れていた。</div><div>　だから、ニアに手伝って貰って浴衣を着て、髪も結って、下駄を履いていそいそと出かけたのだ。</div><div>　なのに、履き慣れない下駄は早々にかなでに苦痛を与えてくれた。最初は少しなら我慢できると自分を誤魔化していたけど、すぐに絆創膏を貼ったくらいでは誤魔化せないくらいに痛みが強くなり、もう一歩も歩きたくないと思うまでには、さほどの時間を要しなかった。</div><div>　それでも、水を差してはいけないと、足が痛いなんて言わなかったかなでの苦痛を察して「帰るぞ」と言ったのは響也だった。</div><div>　痛いとは言わなかったが、痛みを堪えて言葉数が少なくなっていたことがつまり、かなでの苦痛を表現していたわけだ。</div><div>　少し休めば大丈夫というかなでを背負うと強引に決めたのも響也。</div><div>　かなでの幼なじみは、びっくりするぐらいかなでの様子に聡かった。</div><div>　だから、無駄な抵抗はせずに、大人しく響也の背中に体を預けた。密着するにはちょっと暑いから遠慮したけれど。</div><div>　響也に背負われるのはどのくらいぶりだろう。もうずっと幼い頃の記憶しか無い。</div><div>　そういえば、あの時は途中で落っことされたのだ。だって、響也とかなでの体の差はあんまりなかったから、響也は結構早い段階でよろよろしていた。</div><div>　そんなことをふと思い出して、今の響也が一歩も蹌踉めかないことに気が付く。</div><div>　あの頃と違うのはわかっている。響也のほうが背も高いし、背だけではなくて全てのパーツがかなでより大きい。</div><div>　今、かなでが手を置いている肩も、体を預けられる背中も。</div><div>　固くてしっかりしていて、力強い。</div><div>　かなでと全然違う。</div><div>「なっ&hellip;&hellip;&hellip;！」</div><div>　急に響也が声を上げて、今日初めて足下をふらつかせた。</div><div>　だけど、かなでは動じなかった。響也の背中に体を密着させて、後ろから響也を抱きかかえるように手を回していたから。</div><div>　むしろ、突然かなでがそうしたから、響也が足下をふらつかせたとも言えるのだが。蹈鞴を踏んで、響也の歩みが止まる。</div><div>「何、急に、何してんだよ！」</div><div>　かなでを背負って初めて、響也がこちらを見ようとしたが、響也の肩に顎を押しつけて力一杯抱きしめると、その動きも止めてしまう。</div><div>　熱帯夜の空気はまとわりつくように暑さしかもたらさない。だけど、響也と触れ合っている部分はもっと熱くて、でも不快ではなかった。</div><div>「ちょっと離れろ！」</div><div>「やだ」</div><div>「やだって&hellip;&hellip;&hellip;何だそれは！」</div><div>「このほうが安定して歩きやすいでしょ」</div><div>「歩きにくい！」</div><div>「いいからもう！　早く帰ろうよ」</div><div>「お前な&hellip;&hellip;&hellip;」</div><div>　響也の口から盛大なため息が零れた。ゆっくりと足が動き出す。</div><div>　熱いけど、さっきよりもっとずっと心地良い。</div><div>　かなで自身、何故急に抱きつきたくなったのか、よくわからない。そうしたいという衝動に突き動かされただけだ。</div><div>「ねぇ」</div><div>「&hellip;&hellip;&hellip;んだよ」</div><div>　不機嫌さが増したような気がする。声が少し低くなっている。</div><div>　でも。</div><div>「一緒に出かけたのが響也で良かった。そうじゃなきゃ、こんなふうに背負って貰えないもの」</div><div>　本当はきっとそんなに不機嫌じゃないと思う。</div><div>　だって、すぐ横にある耳たぶが真っ赤だから―――。<br />
<br />
</div></div><div></div><div><hr style="margin: 0px; padding: 0px; font-family: Verdana, Chicago, sans-serif; font-size: 16px; line-height: 28.7999992370605px;" /><span size="2" style="margin: 0px; padding: 0px; font-family: Verdana, Chicago, sans-serif; font-size: small;"><span style="margin: 0px; padding: 0px; font-family: Verdana;"><br style="margin: 0px; padding: 0px;" />久しぶりに書きました！　そもそもは花火大会に出かける前のかなでと千秋の話を思い浮かべていたのですが、あっという間に響也に背負われているところにすり替えられていました。花火大会は8/1に催されているものを想定しているので、まだお付き合いしているという状態ではない二人です。</span></span></div>]]>
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    <category>如月響也×小日向かなで</category>
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    <pubDate>Thu, 27 Jul 2017 15:42:12 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>夏の終わりに</title>
    <description>
    <![CDATA[<div>　転校してきて、ヴァイオリン漬けの毎日で、コンクールだの何だのって目まぐるしく過ごしているうちに、夏は終わりに近づいていたから、少しくらい夏っぽいことをしてもいいかと思ったのは事実だ。</div><div>　別にものすごく楽しみにしていたわけではないが、この夏同じくヴァイオリン漬けになっていて、遊ぶ暇も余りなかったかなでが珍しく自分から行きたいなんて言うから、じゃあってその気になって、それで今日出かけることになったというだけだ。</div><div>　行き先は水族館。もちろんかなでのリクエストだ。地元には水族館らしい水族館もなかったし、大きな見応えのある水族館があるのなら、見てみてもいいと思った。</div><div>　あくまでも、かなでの付き添い。かなでを一人で放り出すわけにいかないから、一緒に行く、それだけ。</div><div>　それだけ、なのだが。</div><div>　このメールはなんなんだ。</div><div>　珍しく寝坊することもなく、てきぱきと身支度を済ませようとしていたところに、ベッドの上に置き去りにしていたスマートフォンが震えて知らせたメールの着信。</div><div>　手に取って確認してみればかなでから。</div><div>　メッセージは短く、「今日のお出かけは中止にしよう」。</div><div>　その理由も何も書いていない。だからこそ、切羽詰まった感じはする。しかし、余りに一方的ではないか。</div><div>　だから、すぐに電話をかける。</div><div>「なんだよ、中止って」</div><div>　呼び出し音が切れるとすぐに、勢い込んでかなでにぶつけた。</div><div>　勢いに、かなでが一瞬黙ったのがわかる。少し待つと「ごめんね」と返ってきた。</div><div>「ごめんじゃないだろ。なんだよ、理由もなしにドタキャンはないだろ」</div><div>「ご、ごめん&hellip;&hellip;&hellip;あ」</div><div>　また言った、とはお互いに言わなかったが、言いたくなった気持ちは伝わっていた。そして、自分の苛立ちも。</div><div>「あのね、急に嫌になったとかじゃないんだよ。すっごく行きたいの。それは絶対そうなんだけど&hellip;&hellip;&hellip;」</div><div>「じゃあ、なんで」</div><div>　続く言葉を待てずについ急かしてしまう。</div><div>「う&hellip;&hellip;&hellip;言わなきゃ、駄目？」</div><div>「当たり前だろ」</div><div>「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;言いたくない」</div><div>「お前なぁ！」</div><div>「だって！」</div><div>　響也の声に負けないよう、かなでも声を張る。</div><div>「だって&hellip;&hellip;&hellip;恥ずかしいもん。響也絶対に笑うし」</div><div>「なんで、そう決めつけるんだよ」</div><div>「それくらい、長年一緒にいるんだからわかるよ」</div><div>　今度は響也が黙ってしまう。</div><div>「だから、絶対、響也は笑う。っていうか、絶対、バカにする！」</div><div>「な、なんだ、その断言」</div><div>　意図していなかった反応をしてしまった恥ずかしさから急いで立ち直ろうと、無駄に噛みついてみる。</div><div>「そうなの！　絶対そうなの！」</div><div>「じゃあ、言ってみろよ。ぜってぇ笑わねぇから」</div><div>「や、やだ！　やだよ！」</div><div>「言えって！」</div><div>「やだってば！」</div><div>「言えって！　オレ、ドタキャンされてんだぞ！」</div><div>　かなでが怯んだ。そして、折れた。</div><div>「&hellip;&hellip;&hellip;笑わない？　バカにしない？」</div><div>「しねぇって」</div><div>　それでも一呼吸分の間があって、ようやくその理由が明かされる。</div><div>「鼻の頭にね&hellip;&hellip;&hellip;ニキビが出来ちゃったの」</div><div>「は？」</div><div>　かなでの言葉が聞き取れなかったわけではない。意味がわからなかったのだ。</div><div>「だから！　めっちゃくちゃ目立つところにニキビが出来ちゃって、恥ずかしくて外に出たくないの！」</div><div>「はあ！？」</div><div>　理由を理解した。その上での「はあ！？」だった。</div><div>「バッカじゃねぇ！？」</div><div>「ほらやっぱり！　バカにしたじゃない！！」</div><div>　思わず口にしてしまった言葉に、かなでが敏感に反応する。だが、響也には謝る気は無かった。本当に、本当にバカらしい理由でしかないからだ。</div><div>「お前、そのニキビが治るまで引きこもる気かよ！？　何日かかるんだよ、んなの！　明日からまた練習あんだぞ！？」</div><div>「そ、それはしょうがないから、行くけど」</div><div>「じゃあ、別に今日出かけんのも変わらないだろうが」</div><div>「変わるよ！　今日はお出かけなんだから！　響也の隣を歩くのに、こんな恥ずかしい顔じゃやだよ！」</div><div>「はあ！？　何言って、ん、だ&hellip;&hellip;&hellip;？」</div><div>　途中から勢いをなくす。かなでの言っていることがどんどんわからなくなる。</div><div>「ええと、何だ。ニキビがあるから、オレの隣を歩きたくないってことだよな」</div><div>「そうだよ！　こんな顔、響也に見られたくない」</div><div>　耳が熱い。スマートフォンで電話をしていると、こうなる。暑いこの時期だと、耳が汗を掻いて画面が濡れる程だ。しかし、今はそれだけの理由じゃない。</div><div>　熱いのは耳だけじゃない。顔全体が熱くなっているのがわかる。</div><div>　かなでが何を言わんとしていたか―――所謂、乙女心というやつだ。それにようやく気付いた。</div><div>　そこにある、かなでの響也への想いも。</div><div>　多分、そんな理由で響也と一緒に歩きたくない、顔を見られたくないなんて言われたのは、今が初めてだ。地元に居た頃、そんなことをかなで自身気にしていなかったはずだ。ニキビが出来ちゃったなんて、ちょっとは恥ずかしそうな顔をしていたけど、そういうこともあけすけに響也に話していた。</div><div>　それなのに。</div><div>　この横浜に来て、一ヶ月半。まさか、そんな発言がかなでから出てくるなんて。</div><div>　これじゃあ―――否応なく、響也も自分の中にあるかなでへの想いを意識させられてしまう。ずっと、自分の胸の奥深くに隠してきていた想いを。かなでの発言の真意を知った今、それを愛しいと思ってしまったことも。</div><div>「&hellip;&hellip;&hellip;お前の言ってることはわかった。けど、水族館には行く」</div><div>「なんで！？」</div><div>　絶叫にも近い声だった。</div><div>「なんでって、ニキビの一つや二つ、出かけない理由になんかならねぇからな」</div><div>「だって、わたしの言ってること、わかったって言ったのに！」</div><div>「わかってる上で言ってんだろうが。かなでが気にしてもしなくても、そんな理由でかなでと二人で出かけるチャンスをフイにする気はないからな」</div><div>　ああ、もう本当に熱い。</div><div>　なんで、こんなやりとりを朝っぱらからしなきゃならないのだ。顔だけじゃなくて、全身から汗が噴き出してくる。これは、出かける前にシャワーを浴びないとならない。</div><div>「わかったな、しょうがねぇからあと一時間は待っててやる。一時間後には寮の玄関で待ってろよ！」</div><div>「響也！」</div><div>「オレはお前の言うことなんか聞かねぇからな！」</div><div>　そう言い切って、一方的に電話を切った。</div><div>　スマートフォンの画面は、やはりびしょ濡れで、それをジーパンで拭き取った。それからタオルを引っかけて風呂場へ向かう。</div><div>　一時間後、かなでが約束を違えることなく、玄関に現れるかどうか―――。</div><div>　来る、と思う。</div><div>　だけど、断言するには自信がなかったりもする。</div><div>「はぁ&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」</div><div>　深い深いため息が零れた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
</div><div><hr style="margin: 0px; padding: 0px; font-family: Verdana, Chicago, sans-serif; font-size: 16px; line-height: 28.7999992370605px;" /><span size="2" style="margin: 0px; padding: 0px; font-family: Verdana, Chicago, sans-serif; font-size: small;"><span style="margin: 0px; padding: 0px; font-family: Verdana;"><br style="margin: 0px; padding: 0px;" />鼻にニキビは実体験から思いつきました。というか、この１週間それに悩まされたので、それを題材にしてみたんですけれども。実際にはこんなウキウキなイベントはなかったですよ、もちろん。</span></span></div>]]>
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    <category>如月響也×小日向かなで</category>
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    <pubDate>Sun, 30 Aug 2015 07:56:07 GMT</pubDate>
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    <title>ファーストコンタクト</title>
    <description>
    <![CDATA[出逢ってから十二年になる。<br />
　もう十二年か、それとも、ようやく十二年か。<br />
　自分自身の感覚としては、「もう」十二年だ。それはきっと香穂子も同じだろう。ついでに言えば、「もう十二年になっちゃった」と思っているに違いない。<br />
<br />
　今日は久しぶりのデートである。<br />
　最近では甘い雰囲気など全くないので、デートというよりは単なる近況報告会みたいなものだ。<br />
　それもこれも自分に余裕がなかったせいだし、自分に課した目標を達成するまでは、その目標に向かってただひたすらに前進していたかった。<br />
　こんな自分に、香穂子はさほどの文句も言わず、見守ってここまで来てくれた。本当に有り難いことだ。最初から気骨のある女だとは思っていたが、我慢強い女でもあったのだと改めて思う。<br />
<br />
　待ち合わせは十時に桜木町の駅前。<br />
　十五分前に土浦はその場所に着いた。香穂子の姿はまだ見えない。<br />
　人の流れに邪魔にならないように、コンコースの端で香穂子を待つ。<br />
　日曜日の桜木町の駅は、本当に人が多い。電車が着く度にどっと人が吐き出されてくる。この中に、香穂子はいるはずである。見逃さないように、人の流れに目をこらす。自慢ではないが、これまで香穂子を見逃したことはない。<br />
　といっても、多くは香穂子のほうが先に来て土浦を待っているのだが。<br />
　しかし、今日の土浦は今までの自分と違う。そして、伝えたいことがある。その気合いが、今日は土浦を先に待ち合わせ場所に到達させた。<br />
<br />
　九時五十五分になって、香穂子が現れた。<br />
　ぽんと、背中を叩かれるまで気付かなかった。その時のショックは否めない。見つけられるという自負が、寄りにもよって今日崩されたのだから。<br />
「実は一時間くらい前に着いてたの。コーヒー飲んでたんだ」<br />
　なんのことはなかった。思っていたのと逆方向から来ただけだった。それでも、少しはショックが残ったが。<br />
「とりあえず、どこに行く？」<br />
　年は重ねても、変わらない笑顔。まっすぐに伸びた背筋は、今も続けているヴァイオリンのため。<br />
　高校生の時に始めたヴァイオリンを香穂子は生業とした。といっても、もちろんプロになるほどではなかったが、音楽教室で生徒を受け持つほどの腕前である。自身の経験から生徒たちに好評であるようだとは、今でも交流のある天羽からの情報だ。<br />
「少し歩くか。日差しがちょっと強いけど、臨海公園まで行けば潮風が気持ちいいだろ」<br />
「オッケー」<br />
　駅を出るとすかさず香穂子は白い日傘を差した。<br />
　実は、土浦は日傘が余り好きではない。人前でべたべたするのは好まない土浦でも、傘の分、香穂子と距離が出来るのは余り面白くないのだ。もちろん、そんなことはおくびにも出さないが。<br />
　十二年付き合ってきて、余り変わったとは思っていないが、ふとした瞬間に気が付くことがある。それはこの日傘だったり、最近体重が減りにくいなんて香穂子の愚痴だったり、懲りやすくなった自分の体だったり。<br />
　そういうことに気付いたときに、なんとも居たたまれない気持ちになることがある。<br />
　それだけの長い時間を、過ごさせてしまったことに。<br />
　そうわかっていても、どうしようもなかった。自分には達したい目標がある。それは香穂子にもはっきり伝えていたし、それを自分から覆すわけにもいかなかったから。<br />
　居たたまれない気持ちと、自分の決意とのジレンマが何度も訪れては去って行った。<br />
　いい加減、そのジレンマとは決別したい。そして、それは近い。<br />
<br />
　梅雨明け宣言はまだ出ていない。今日は、二人のデートを祝福するかのように、梅雨の晴れ間に恵まれた。空気も心なしか爽やかだ。梅雨独特のまとわりつくような不快感がない。<br />
　そんな空気の中で、とりとめの無いことを話しながら臨海公園を目指す。<br />
「久しぶりに来たね」<br />
　公園に足を踏み入れた香穂子の第一声はそれだった。<br />
「そうだな」<br />
　公園自体、大人になって余り来ることがなくなった。学生のうちはよく来ていたものだが。<br />
「あそこが空いてる。少し座らないか」<br />
「うん」<br />
　並んで座る二人を潮風が撫でていく。<br />
「それでどうしたの？」<br />
　座るのを待ち構えていたような言葉に、ちょっと身を引く。見透かされているようなところが怖い。<br />
「どうしたのって、なんだ」<br />
「だって、こんな場所、普段だったら来ないでしょ？　何かあるのかなぁって思うじゃない」<br />
「そうか&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　隠し事なんてとっくに意味が無くなっている十二年。<br />
　それならこれ以上勿体ぶったって意味が無い。<br />
　それに、早く決着を付けてしまいたい気持ちも大いにある。<br />
「あのな。この間、プロオケの指揮者として採用されたって話しただろ」<br />
「うん」<br />
　少し、香穂子の顔に陰が刺す。少し、言い方が悪かったか。<br />
　プロオケの指揮者になること、それが土浦の目標だった。小さくてもいい。安定した収入が見込まれる状態になることが大事だった。そうでなければ、その先には踏み出せないと思っていたから。<br />
　そして、それはほんの少し前に叶った。今は、そのオケで練習を重ねる日々。<br />
「別に、その話がなくなったとかじゃないぞ」<br />
　香穂子の気持ちを汲んでそう言うと、はっきりとホッとした表情になる。<br />
「まだ最初の公演日も迎えてないから、時期尚早かと思わないでもなかったんだが、けりを付けるにはいいかと思って」<br />
　そう言って、パンツのポケットから小さな天鵞絨の箱を取り出す。<br />
　あからさますぎて恥ずかしすぎるが、ここが男の見せどころだともわかっている。<br />
「これ、受けてくれないか」<br />
　中に入っているのは、リング。ピンクゴールドのリングに小さなダイヤモンドが三つ並んでいるだけの、シンプルで華奢なもの。太陽の光を受けて、ダイヤモンドがきらりと輝きを放つ。<br />
　香穂子に向けてひらいた小箱の真ん中にあるリングを凝視していた香穂子から真っ先に出て来たのは、ぼろっと大きな涙の粒だった。ぎょっと、思わず箱を取り落としそうになる。<br />
「や、やだもう。なんで今なの！？」<br />
　続いてきた香穂子の言葉は、自身の涙に対するものなのか、土浦の行動に対するものなのかわからない。だが、否定する様子はなかった。<br />
「もう、貰えないのかと思ってた」<br />
　上目遣いの香穂子の瞳はまだ濡れているが、もう涙は溢れていない。口元には笑み。それだけで、土浦は全身から力が抜けるような気がした。<br />
「ね、付けて」<br />
　差し出された香穂子の左手。<br />
「ああ&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　リングに伸ばした指が震えているのに気が付いた。情けない。なんでこんなことで手が震えるのか。<br />
　いや、こんなことだからか。<br />
　震えようとする手をなんとかコントロールして、香穂子の薬指にリングを通す。サイズに間違いはなかったが、やはりちゃんと嵌まるのか少しだけハラハラした。<br />
「ありがとう」<br />
　手をかざして、香穂子はしげしげとリングを見ている。<br />
「ごめんな」<br />
　香穂子を見ていると、勝手に口から零れた。<br />
「え？」<br />
　リングを見ていた香穂子の視線が土浦に移る。<br />
「いや、長いこと待たせたから」<br />
　香穂子から視線を逸らしたのは、やはり罪悪感を持っていたからだ。<br />
「そうだねぇ。長かったよね。十二年だもんね」<br />
　香穂子の言葉は容赦ない。だが、「もう」も「ようやく」も、付かなかった。<br />
「でも、そうと決めてたのは知ってたから&hellip;&hellip;&hellip;少しはやきもきしたけどね」<br />
　リングの嵌まっているほうの手が、土浦の手に重ねられる。視線が香穂子に戻る。<br />
「だから、一つだけペナルティね」<br />
　香穂子の目がきらりと光ったような気がした。こういう目をするときは、何を言い出すのかわからないから、身構える。<br />
「ちゃんと、言葉にして伝えて。この指輪の意味」<br />
<br />
<br />
<div><hr style="margin: 0px; padding: 0px; font-family: Verdana, Chicago, sans-serif; font-size: 16px; line-height: 28.7999992370605px;" /><span size="2" style="margin: 0px; padding: 0px; font-family: Verdana, Chicago, sans-serif; font-size: small;"><span style="margin: 0px; padding: 0px; font-family: Verdana;"><br style="margin: 0px; padding: 0px;" />サイト12周年に合わせて書いてみました。プロポーズ話です。尻切れトンボじゃなくて、敢えてここで終わりにしました。言葉に詰まりながら、しどろもどろになってプロポーズしたか、ずばっとはっきり言ったか。それはご想像にお任せします。久しぶりに土浦と香穂子を書きました。12年後の話を書こうと思ったら、この二人が形にしやすかったのです。<br />
</span></span></div>]]>
    </description>
    <category>土浦梁太郎×日野香穂子</category>
    <link>https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E5%9C%9F%E6%B5%A6%E6%A2%81%E5%A4%AA%E9%83%8E%C3%97%E6%97%A5%E9%87%8E%E9%A6%99%E7%A9%82%E5%AD%90/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%AF%E3%83%88</link>
    <pubDate>Sat, 11 Jul 2015 18:05:07 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>sweet rain</title>
    <description>
    <![CDATA[<div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　菩提樹寮の玄関ホールに飛び込んで、かなでは大きく息を吐き出した。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">「びしょ濡れになっちゃいましたね」</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　その隣で東金は手で水を払いながら応える。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">「天気予報は大はずれだな」</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　ドアの向こうでは、さっきよりも雨脚が強くなっているようだ。雨が屋根を叩きつけている音がどんどん大きくなっている。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　視界にかなでの手が入ってくる。振り向くと、かなでのハンカチを握った手が東金の濡れた顔を拭こうとしていた。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　それが届く寸前に手の甲で止める。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">「いい。そのくらいじゃ拭けない。それにお前も同じように濡れて&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
「じゃあ、タオル取ってきます！」</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">「待て！」</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　すぐに駆け出したかなでを制止する。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　振り返るかなでには、ちょっとむっとしている。良かれと思ってやろうとしていることを止められたのだから無理もない。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　その様子にちょっとだけ苦笑しながら、東金は制止した理由を述べる。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">「タオルを持ってきてくれのはありがたいが、その前に自分も同じだけ濡れてることを考えろ。まずは自分を拭くべきだ」<br />
</span><span style="font-family: Arial;">　言われて初めてそのことに思い至ったのか、かなではちょっとだけ目を大きくする。</span></div><div>　しかし、やはりと言うべきか、なんと言うべきか、その先のことには自分では思い至らないようだ。東金は苦笑ではく、含みを持たせた笑みに変える。</div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">&nbsp;　さすがに、表情を読みとるのは素早い。目に警戒の色が走る。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">「とは言え、タオルで拭いてどうにかなるような濡れ方じゃないからな。服も着替えた方がいい―――俺を誘ってるつもりなら、止めないが」</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　途中から、服が透けていることに気づいたのだろう。頬を赤くして、自分の身を両腕で隠す。東金もそれがわかっていて、最後の言葉を加えた。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　今や、かなでの顔は真っ赤である。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">「へへへ部屋に戻ります！」</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　さっきよりも素早くかなでは踵を返す。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　その背中に、東金は声を掛ける。</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">「着替えたらラウンジで紅茶でも飲んで暖まるぞ」</span></div><div><span face="Arial" style="font-family: Arial;">　かなでは向こうを向いたまま、こくんと頷いた。<br />
　頷いたかなでに、東金は満足そうに微笑んだ。</span></div><br /><br /><a href="https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E6%9D%B1%E9%87%91%E5%8D%83%E7%A7%8B%C3%97%E5%B0%8F%E6%97%A5%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A7/sweet%20rain" target="_blank">あとがき</a>]]>
    </description>
    <category>東金千秋×小日向かなで</category>
    <link>https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E6%9D%B1%E9%87%91%E5%8D%83%E7%A7%8B%C3%97%E5%B0%8F%E6%97%A5%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A7/sweet%20rain</link>
    <pubDate>Sat, 24 May 2014 18:29:01 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>オモイのイロ</title>
    <description>
    <![CDATA[<span style="font-family: verdana;"><span style="font-family: Arial;" face="Arial">「東金さんって、色黒いですよね」<br />　かなでが唐突にそんなことを言う。脈絡がなさ過ぎて「は？」としか返せない。<br />　最近、鮮やかな音を奏でるようになった―――それは大いに千秋の影響であるところは間違いない―――細い手で包み込むようにグラスを傾けたかなでは、その仕草でグラスから涼やかな氷の音を響かせる。<br />　ファイナルまであと三日。必死になるのはわかるが、どうにもこうにも根を詰めすぎているようだったので、千秋が休憩に誘ったのだ。芹沢あたりが見たら度肝を抜くかも知れないが、二人の前にあるグラスにアイスティを注いだのは、千秋自身だ。<br />　もっとも、そのアイスティを作って冷蔵庫にストックしていたのはかなでなのだが。<br />　昼下がりの菩提樹寮のラウンジ。<br />　静かな空間には、千秋とかなでだけ。<br />　ゆるゆると過ぎる時間で、ゆったりとしていたところに投下されたのは、予想もつかないかなでの言葉。一体、何を考えていたのか。<br />　―――何を考えていたのかは丸わかりだ。<br />　千秋は口元を緩める。<br />「なんだ。俺のことが気になるか」<br />　からかいの口調。かなでの反応がわかっていての、その言い方だ。<br />　案の定、かなでは頬を赤くする。<br />　この反応が、たまらなく、愛おしい。<br />「いいぜ。この際だ。何でも教えてやる。さあ訊け」<br />　人差し指を上に向けてくいくいと動かし、かなでに質問を促す。<br />　かなではぱくぱくと何度か口を開け閉めしていたが、頬に赤味を残した状態で千秋の提案に乗ることにしたようだ。<br />「日焼けじゃなくて、色黒なんですか？」<br />　さっきの発言の続きらしい。そんなに気になるのか。気になるポイントが謎で、でも面白い。<br />「そうだな。好きこのんで日に焼けた覚えは無いな」<br />「そうですか」<br />　まさかと思いたいが、どうやら、これ以上この話について、かなでは膨らますつもりはないらしい。本当に、ただ単純に疑問に思って訊きたかっただけのようだ。<br />　それならば仕方が無い。<br />　千秋のほうから話を広げてやることにする。<br />「証拠でも見せようか」<br />「え？」<br />　きょとんとするかなでを他所に、千秋はすくっと籐椅子から立ち上がった。<br />　そして、徐にベストを脱ぎ、シャツのボタンを外す。その間、かなでの表情を伺うことは忘れない。<br />「えええっ」<br />　シャツのボタンに手をかけたあたりで、かなでは千秋が何をしようとしているのか察したらしい。顔が尋常じゃ無く赤くなっている。あれでは、せっかく寛いだ体を熱くしていることだろう。<br />　もちろん、千秋はわかってやっている。<br />「なななななにを&hellip;&hellip;&hellip;！」<br />　慌てるかなでがまた面白くて、可愛い。<br />「ほら、どうだ。満遍なく黒いだろう」<br />「わわわわわかりましたから！　っていうか、別に疑ってないです！！」<br />　かなでは真っ赤な顔を下に向けて、ぶんぶんと首を横に振っている。<br />「そうか？　それならそれでいいが、どうせだからしっかり知っていて貰おうと思っただけなんだがな」<br />「も、もう充分です！！」<br />「何なら、下も&hellip;&hellip;&hellip;」<br />　言いながらズボンのベルトのバックルに手をかける。敢えて大きめの音を立てながら―――。<br />　声になりきらない、か細い悲鳴がかなでの口から漏れている。<br />　さすがに。<br />　もう、笑いを抑えられなかった。ぶっと吹き出すと、盛大に笑い声を上げる。<br />　かなではまたぽかんとした顔をしていた。<br />　ああ。また、油断している。<br />　これだから、かなでに構いたくなる。もっと意識しろと言いたくなる。ちょっかいを出さずにいられない。<br />「&hellip;&hellip;&hellip;も、もしかして、からかったんですね？」<br />　幾分、声が低い。これはちょっと怒っている。からかいすぎたか。<br />「からかっちゃいないさ。心から、俺のことを知って欲しいと思っているだけだ」<br />　白いシャツを羽織る。ボタンは留めない。かなでとの間にあるテーブルに手をついて、ぐいっとかなでのほうに身を寄せた。<br />　怒っているかなでは、引かない。さっきまでなら、仰け反っていたに違いないのだが。<br />「もっと俺に興味を持て」<br />　引かないのなら、それでいい。<br />　首を伸ばして、かなでの頬に唇で触れる。<br />　かなでが息を呑む。<br />　口元に笑みを浮かべて、千秋はもう一度、かなでの頬にキスをした。</span></span><br /><br /><a href="https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E6%9D%B1%E9%87%91%E5%8D%83%E7%A7%8B%C3%97%E5%B0%8F%E6%97%A5%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A7/%E3%82%AA%E3%83%A2%E3%82%A4%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%83%AD_167" target="_blank">あとがき</a>]]>
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    <category>東金千秋×小日向かなで</category>
    <link>https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E6%9D%B1%E9%87%91%E5%8D%83%E7%A7%8B%C3%97%E5%B0%8F%E6%97%A5%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A7/%E3%82%AA%E3%83%A2%E3%82%A4%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%83%AD_167</link>
    <pubDate>Wed, 16 Apr 2014 17:31:20 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>残る、音</title>
    <description>
    <![CDATA[<span style="font-family: verdana;"><span style="font-family: Arial;" face="Arial">　―――千秋。<br />
　軽やかで柔らかい声。<br />
　彼女が奏でるヴァイオリンの音だけでも、千秋を魅了するには十分だったというのに、久しぶりに会ったかなでは、予想外の音の置き土産をしていってくれた。<br />
　最初に名前を呼んだのは千秋のほう。<br />
　ちょっとからかってやろうかと思ったのだ。<br />
　久しぶりだったから、ちょっと浮かれてもいた。<br />
　なのに。<br />
（まったく&hellip;&hellip;&hellip;）<br />
　あの日から、何度も勝手に再生されてしまう。<br />
　―――千秋。<br />
「千秋」<br />
　こんな、聞き飽きた男の京都弁じゃない。<br />
「聞こえとんのやろ、千秋」<br />
　二回目に名前を呼ばれて、千秋はようやく瞼を押し上げた。部屋のソファに足を延ばして横になっていた。<br />
「何だ」<br />
　かなでとの思い出に浸っていたいところを邪魔した蓬生を半ば睨みつける。<br />
「怖い顔しとったら、小日向ちゃんが逃げてってまうよ？」<br />
　曲者感たっぷりの笑みを浮かべる蓬生がまったくもって忌々しい。悪くない気分だったのに、ぶち壊してくれる。<br />
「ここにはいないヤツの反応を心配したって何にもならないだろうが」<br />
　蓬生は向かいのソファに座り、足を組む。<br />
　千秋もようやく体を起こした。<br />
　二人の間にはローテーブルがある。その上に乗っている一組のティーカップにはあと一口ほどの紅茶が残っていた。<br />
　呷るように飲み干したが、すっかり冷めていた。<br />
「そんなに会いたいんなら、会いにいけばいいんとちゃう？　新幹線であっという間なんやろ」<br />
　自分でそう言ってたやん、と蓬生が言葉を続ける。<br />
「芹沢も鬱陶しゅうてかなわへんって言いよったよ」<br />
「なに？」<br />
「副部長。私はそんなことは言っていません」<br />
　芹沢の声がすかさず飛んでくる。その手にあるトレイには二人分の紅茶の用意がなされていた。<br />
「俺様千秋が何、遠慮しとん」<br />
「遠慮なんかするか」<br />
　芹澤の手によって、それぞれの前に置かれるティーカップからは湯気と香りが立ち上っている。<br />
　遠慮などしていない。<br />
「大体、誰が会いたいなんて言った」<br />
「なら、会いたくないのん？」<br />
「その手には乗るか」<br />
　くいっと、ティーカップを傾けた。<br />
「なーんや。つまらん」<br />
　蓬生は心底つまらなさそうにソファの背に体を預ける。やはり、暇を持て余して千秋をからかいたかっただけのようだ。<br />
「会いたくて焦れて余裕のない千秋を見てみたいわ」<br />
「生憎だったな」<br />
　そんなところ。<br />
　いくら、蓬生にだって見せられるか。<br />
　余裕がない？<br />
　そんなもの、つい一週間前まではなかった。<br />
　夏休みが終わると共に、横浜へ向かった面々で神戸へと戻ってきた。かなでは横浜での生活がある。そんなことはわかりきっていたし、覚悟はしていた。<br />
　だが、理解していることと、想いは別物だ。<br />
　日を追う毎にかなでがどうしているか気になる。電話をすれば言葉を交わすし、そうすればかなでが今どうしているか知ることが出来る。<br />
　しかし、それだけだ。<br />
　声だけ。<br />
　顔の入った写真を送れ、なんて言っても送ってこないし。<br />
　そうこうしているうちに、あっという間に三週間が過ぎていた。我慢は出来ていた。<br />
　だが、一度気付いてしまったら、居ても立ってもいられなくなった。かなでと出逢ってから過ごした時間が三週間だったことに。<br />
　たった三週間で、かなでは千秋にとって忘れられない女になったのだ。<br />
　そして、千秋は提案した。神戸に遊びに来いと。<br />
　おまけ付きなのはしょうが無い。いきなり一人で来いなんて言ったところで、かなでのことだ。尻込みするのは目に見えている。変なところで大胆なくせに、妙なところで物怖じするのだ。<br />
　会えたのは、たった二日間。<br />
　だけど、かなでは大きなお土産を置いていったというわけだ。変なところで発揮する大胆さがもたらしたものと言える。<br />
　その特別な音と声は、今の千秋を満ち足りた気持ちにする。<br />
　ただ。<br />
　これがいつまで保つのかは不明だ。多分、それほど長くはないだろう。<br />
（そうなったら）<br />
　今度は、こちらから逢いに行く。<br />
　自然と口元に笑みが浮かぶ。<br />
　―――我ながら、よく我慢してやがる。</span></span><br /><br /><a href="https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E6%9D%B1%E9%87%91%E5%8D%83%E7%A7%8B%C3%97%E5%B0%8F%E6%97%A5%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A7/%E6%AE%8B%E3%82%8B%E3%80%81%E9%9F%B3" target="_blank">あとがき</a>]]>
    </description>
    <category>東金千秋×小日向かなで</category>
    <link>https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E6%9D%B1%E9%87%91%E5%8D%83%E7%A7%8B%C3%97%E5%B0%8F%E6%97%A5%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A7/%E6%AE%8B%E3%82%8B%E3%80%81%E9%9F%B3</link>
    <pubDate>Mon, 14 Apr 2014 15:54:19 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>ゆらりゆられて</title>
    <description>
    <![CDATA[<span style="font-family: verdana;">　ほどよく疲れた体に、電車の振動は心地良い。その心地良さに眠りを誘われたのだ、と眠りから目覚めた律はすぐに理解する。<br />
　それはすぐに理解できたが、自身の状態が少々理解できない。右のこめかみに何か当たって、自分の上半身がそちらに傾いでいる。どうやら何かにもたれていたらしい。<br />
　眼鏡の蔓がずれたのを直しながら傾いでいた体を起こすと、自分が何にもたれ掛かっていたかを確認する。<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;小日向？」<br />
　自分がもたれていたのは、年下の幼なじみだった。<br />
「やっと起きた～」<br />
　にこにことかなでが言う。<br />
　律は瞬時に状況を思い出す。<br />
　かなでと二人で大会の会場の下見をしてきたところだった。律にとっては初めての場所ではなかったが、かなでは初めて訪れる場所になる。もちろん場内に入ることは出来なかったが、雰囲気だけでも掴んでくれれば、と思ったのだ。かなではもうすぐ大会だという緊張感に欠けている感がある。緊張感を持って欲しいという希望もあった。残念ながら、それには失敗したようだが。<br />
　律としては響也も連れてきたかったのだが、出かける直前に姿をくらました。仕方ないので、かなでだけ連れてきたのである。<br />
　寮まで帰る電車の中で、律は寝てしまったということだ。しかも、かなでの肩を借りて。<br />
　正直に言って、律らしからぬ失態だ。電車の中で寝てしまうことはまだ良しとしよう。しかしながら、年下の幼なじみに肩を借りるとは。<br />
　とはいえ、非常に不本意だが、かなでに負担を強いたことは事実だ。謝辞を口にしようとしたところで、車内アナウンスに阻まれる。いや、阻まれたのではない。自ら止めたのだ。<br />
　アナウンスが告げたのは耳慣れない地名。それはつまり、最寄り駅を通り過ぎた、普段は利用しない駅であるということだ。<br />
「どこだ！？」<br />
　強い口調の律に、かなではのんびりと応える。<br />
「よくわからないけど&hellip;&hellip;&hellip;降りる駅から、5つくらい先だよ。だから、そんなに遠くないよ」<br />
「なんで起こさなかった！？」<br />
　練習を終えた後に会場まで足を運んだのだ。いくら夏の日が長いとはいえ、外は既に外灯がなければ歩けないほど、暗い。練習で疲れた体を寮に戻って一刻も早く休めたいところに、これは単なる時間のロスだ。<br />
「だって、気持ちよさそうに寝てたから、起こしちゃ悪いって思って」<br />
　律は息を呑んだ。<br />
　その間に電車が駅のホームに滑り込む。<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;ともかく、降りるぞ」<br />
「うん」<br />
　素直にかなでは律の後ろを付いてくる。<br />
　かなでを背中に感じながら、昔のことを思い出していた。<br />
　幼い頃、どこへ行くのにもかなでは後ろを付いてきていた。または、ついて来ようとした。どこでもかしこでも連れて行くわけにいかないから、半分くらいは置き去りにしたこともあるが、懲りるということを昔から知らなかったかなでは何度も後ろを付いてきた。<br />
　よもや、高校生になってまでも追ってくるとは思わなかったが。<br />
　ちなみに、かなでの後ろからは響也も付いてきていた。今現在は付いてきていないが、転校にまで付いてきて、全くもって面倒見が良い。だからこそ、律はかなでを置き去りに出来たわけだが。<br />
　反対側のホームへ上がって間も無く、上りの電車が入ってくる。<br />
　時間のせいか、空いていたため並んで座る。今度は、眠らない。眠気などどこかに飛んで行ってしまったし。<br />
　電車がホームを離れてしばらくしてから、律はさっき飲み込んだ謝辞を口にした。<br />
「すまなかったな」<br />
　肩を借りていたこと。<br />
　眠ってしまったのは律なのに、思わずかなでを責める言い方をしてしまったこと。<br />
　そうとははっきり言わずに、ただ、謝った。<br />
　かなでのほうは一瞬なんで謝られたのかわからなかったようで、その顔をにっこりと笑顔に替えるまでに少々時間を要した。<br />
　律は、その笑顔に少しだけ心を緩ませる。<br />
　その緩んだ心に、するりとかなでの言葉が入ってくる。<br />
「ちょっとだけ嬉しかったし」<br />
「は！？」<br />
　かなでの顔を見ると、その顔には変わらない笑顔が浮かんでいた。律の怪訝な顔を見ても、それは揺るがない。<br />
「だって、律くんに頼られたみたいだったから」<br />
　かなでは少ない言葉で嬉しさを表現したが、それは律の眉間に皺を増やしただけだった。<br />
　とはいえ、その皺が実は照れ隠しだったことは、律だけの秘密だ。</span><br /><br /><a href="https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E5%A6%82%E6%9C%88%E5%BE%8B%C3%97%E5%B0%8F%E6%97%A5%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A7/20130916" target="_blank">あとがき</a>]]>
    </description>
    <category>如月律×小日向かなで</category>
    <link>https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E5%A6%82%E6%9C%88%E5%BE%8B%C3%97%E5%B0%8F%E6%97%A5%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A7/20130916</link>
    <pubDate>Sun, 15 Sep 2013 19:21:09 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">vbjcb.blog.shinobi.jp://entry/164</guid>
  </item>
    <item>
    <title>レモンキャンディ</title>
    <description>
    <![CDATA[<font style="font-family: verdana;">　ほんのちょっとだけ、喉がいがらっぽい気がして、火原は一度だけ喉を鳴らす。<br />
「風邪ですか？」<br />
　隣を歩く香穂子は、その音を聞き逃さなかったようだ。すかさず、そんな質問が飛んでくる。<br />
「ううん。大丈夫。ちょっと喉が気になっただけ」<br />
「そうですか？　今朝はいつもよりちょっと気温が下がってたから&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
「だよね！　清々しい朝ってこういうことを言うんだなって思ったよ」<br />
　梅雨も一休みといったところか、今日は朝から空が澄み渡っている。夏が到来したと言ってもおかしくはないくらいにカラッとした空気が半袖の腕に気持ちいい。その分、気温も低く感じられた朝だった。<br />
　寝起きに汗ばんでいないなんていうのも久しぶりだ。いつもは薄い掛け布団でさえ蹴り飛ばしているのに、今朝はＴシャツがまくれていた腹部を覆うのにたぐり寄せたくらいだ。<br />
「そういえば&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　香穂子がおもむろに自分のカバンの中を探り始める。必然的に足を止めることになり、登校する他の生徒たちの邪魔にならないよう、道の端に避けて香穂子が捜し物を終えるのを待った。<br />
　さほどの時間はかからなかった。<br />
「はい」<br />
　笑顔と共に突き出された香穂子の手のひらには、小さな小さな袋。一目でそれが飴玉だとわかる。<br />
「のど飴じゃないけど、少しは紛れるかも」<br />
　風邪じゃないと言ったにもかかわらず、香穂子が心配してくれているのが嬉しい。<br />
　遠慮せずに、その飴玉を手に取った。<br />
「ありがとう！」<br />
　断るわけがない。香穂子がくれるというものを、みすみす逃すわけがない。<br />
　そして、早速包みを開ける。<br />
　薄い黄色の飴玉。<br />
　口に入れてまず感じたのは甘さ。それから、香り。<br />
「レモンだね」<br />
「昨日、帰りに買ったんです。なんだか急に食べたくなって」<br />
　そう言って、香穂子も一つ口に含んでいる。それから、火原のほうを見て、にっこり笑う。<br />
　その笑顔に笑顔を返した後、火原は舌で飴玉を転がしながら、ふと空を見上げた。<br />
（なんだか&hellip;&hellip;&hellip;）<br />
　青が眩しい空に、隣にいるのは大好きな女の子。<br />
（このキャンディ、今の俺の気分そのまんまだ）<br />
　甘くって、だけど少しだけ酸味があって、爽やかな味。<br />
　それが今、口の中いっぱいに広がって―――。<br />
「美味しいね、これ」<br />
　改めて、満面の笑みを浮かべた顔を香穂子のほうへ向けた。それから、前を向いて歩き出す。<br />
　だから、香穂子がその笑顔に眩しそうに目を細めたことには気付かなかった。</font><br /><a href="https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E7%81%AB%E5%8E%9F%E5%92%8C%E6%A8%B9%C3%97%E6%97%A5%E9%87%8E%E9%A6%99%E7%A9%82%E5%AD%90/%E3%83%AC%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3" target="_blank">あとがき</a>]]>
    </description>
    <category>火原和樹×日野香穂子</category>
    <link>https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E7%81%AB%E5%8E%9F%E5%92%8C%E6%A8%B9%C3%97%E6%97%A5%E9%87%8E%E9%A6%99%E7%A9%82%E5%AD%90/%E3%83%AC%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3</link>
    <pubDate>Mon, 09 Jul 2012 14:43:44 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">vbjcb.blog.shinobi.jp://entry/163</guid>
  </item>
    <item>
    <title>Cookie Monster</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><span style="font-family: Verdana">　ふわりと漂う甘い匂い。この匂いを響也はよく知っている。<br />
　その匂いは、台所から漂ってきていて、玄関にまで届いていた。<br />
　菩提樹寮。ここへ越してきたのは、二週間前のこと。最初は足を踏み入れることさえ躊躇うほどだった、幽霊屋敷と見間違えてもおかしくない寮である。今はそれにも慣れた。新しい場所での生活リズムもなんとか整ってきた。<br />
　匂いを辿りながら、台所へと向かう。<br />
　だが、この匂いを作り出した張本人の姿はどこにもなかった。あるのは、匂いを漂わせているそのものばかり。<br />
　オーブンから取り出されて、網の上に重ならないように並べられたそれは、熱を冷ますために、台所でも風通しの良い場所に置かれている。<br />
　丸いそれは、カントリークッキー。<br />
　もちろん、かなでが作ったものだ。この寮でこんなことをするのはかなでしかいない。<br />
「暢気だな」<br />
　今は時間を惜しんで練習すべき時ではないのか。<br />
　したくもない練習に振り回されている響也としては、その暢気さに苛立つ。いったい誰のために練習していると思っているのか。かなでが巻き込んだからじゃないか。<br />
　ふつふつと怒りが込み上げてきて、まだ冷め切っていないクッキーを一つ頬張る。噛み砕きながら、何故暢気にかなでがクッキーを作ったのか、その理由に思い至る。<br />
　それは今日の午前中のこと―――。</span><br />
<br />
<span style="font-family: Verdana">「へえ。かなでちゃんって料理が得意なんだ」<br />
　大地が心から感心したように言う。響也からすれば、曲者としか思えない笑みを浮かべながら。<br />
「得意ってわけじゃないですけど、作るのは好きなんです」<br />
　はにかみながら応えるかなで。何故、はにかむ必要がある。<br />
「お菓子なんかも作ったりするんだ？」<br />
　狭い練習室には響也とかなでと大地の三人。<br />
　音を合わせようと集まったにも関わらず、ひとしきり練習して問題点も多々あることがわかっているのに、大地は遠慮なしにかなでに話しかけてばかりだ。一方のかなでも嬉しそうに応えている。<br />
　会話に置いていかれている響也としては、練習しないのなら帰りたいところだが、それを言い出すタイミングさえ見いだせない。問題点が多々見受けられるアンサンブルなんだから練習しよう、なんて言うのは以ての外。それじゃあ、響也ばかりが真面目みたいだし、響也がやりたいみたいじゃないか。アンサンブルをやりたいのはかなでで、響也はそれにつきあわされているだけなのだ。<br />
「お菓子を作るほうが好きです。小学生の頃からいろいろ作ってたんですよ」<br />
「得意なのは？」<br />
「えーっと&hellip;&hellip;&hellip;クッキーかな。みんな美味しいって言ってくれるんです」<br />
「そうなんだ。俺も食べてみたいなぁ」<br />
「いいですよ」<br />
　かなではあっさりと請け合った。<br />
「今度作って来ますね」</span><br />
<br />
<span style="font-family: Verdana">　その今度が、当日とは。<br />
　張り切りすぎだ。<br />
　響也はまた一つクッキーを頬張った。それを飲み込まないうちに次のクッキーへと手をつける。<br />
　無性にむしゃくしゃしている。クッキーを頬張れば頬張るほど、むしゃくしゃというか、むかむかの度合いがどんどん増していく。<br />
　それを押さえ込もうとするようにクッキーを次々と頬張る。<br />
　結局、さほどの時間を要することなく、クッキーを平らげていた。<br />
　台所には、甘い匂いが残るばかり。それも程なく消えてしまうことだろう。<br />
　胸のむかつきはいつの間にか収まっていた。<br />
　&hellip;&hellip;&hellip;単に空腹だっただけなのだろうか。<br />
　しかし、そうではないことは、頭のどこかでわかっていた。<br />
　ただ、それが何であるのか、今の響也にはわからない。<br />
　そのむかつきの正体を響也が知るのはもう少し先の話―――。</span></p><br /><a href="https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E5%A6%82%E6%9C%88%E9%9F%BF%E4%B9%9F%C3%97%E5%B0%8F%E6%97%A5%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A7/cookie%20monster" target="_blank">あとがき</a>]]>
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    <category>如月響也×小日向かなで</category>
    <link>https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E5%A6%82%E6%9C%88%E9%9F%BF%E4%B9%9F%C3%97%E5%B0%8F%E6%97%A5%E5%90%91%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%A7/cookie%20monster</link>
    <pubDate>Fri, 29 Jul 2011 14:49:15 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>響いて、響いて</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><span style="font-family: Verdana">「ねっ！　もうすぐ月森君の誕生日だよね！」<br />
　そう言い出したのは天羽だ。<br />
　留学のために月森が日本を離れてからほぼ一ヶ月。初めて、一緒にお祝いできると思っていた誕生日に、その当人が不在。<br />
　留学のことはちゃんと割り切って考えているが、それでも寂しいと思ってしまう。<br />
「うん」<br />
「何かお祝いするんでしょ？」<br />
「うん&hellip;&hellip;&hellip;まだ、何にするか決めてないんだけど&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　早く決めなくては、とは思っている。遠い空の下にいる月森へ誕生日にプレゼントを届けるには、一週間はみておかないとならない。となると、もう今週の内に決めてしまわなければ。<br />
「香穂がひとっとびすれば、それだけで大喜びしそうだけどねぇ」<br />
　それが出来るのなら香穂子だってそうしたい。何しろ会えるのだから。むしろ大喜びするのは香穂子のほうだろう。<br />
　だが、月森はそんな香穂子の姿を見たら、顔をしかめるかも知れない。こんなところへ来ている暇があるのなら、練習をしろ、と。<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;ああ。言いそうだねぇ、そんなこと」<br />
　天羽がため息混じりに頷いた。<br />
「何がいいのかねぇ&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　新緑が眩しい季節。森の広場でお弁当を抱えて、二人で唸る。<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;あ&hellip;&hellip;&hellip;こんにちは」<br />
　ゆったりとした声が背後から掛けられる。振り返ると、志水がゆらゆらと立っていた。手には広げられた本。どうやら歩きながら読んでいたらしい。何度危ないと言っても直らない癖だ。<br />
「あ。ねぇねぇ、志水君。誕生日プレゼントに何欲しい？」<br />
　天羽が唐突に問いかける。<br />
「僕&hellip;&hellip;&hellip;ですか？　僕、誕生日、もうすぐだったかな&hellip;&hellip;&hellip;？」<br />
「違う違う。志水君じゃなくて、月森君」<br />
「ああ&hellip;&hellip;&hellip;月森先輩&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;やっぱり日本では聴けない音とか聴いてるのかな&hellip;&hellip;&hellip;いいな&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　志水の思考が脱線していこうとしているのを天羽が慌てて留める。<br />
「だから、その月森君が誕生日だから何かプレゼントしたいなって思ってるんだ。何かいい案ないかな？」<br />
「プレゼント&hellip;&hellip;&hellip;楽譜が、欲しいです&hellip;&hellip;&hellip;。そういえば、僕も五線紙がなくなってたな&hellip;&hellip;&hellip;購買部へ、行かなくちゃ」<br />
　相変わらず、マイペースである。<br />
　だが。<br />
「合奏とか、いいですね。僕、この間、いい音楽を聴きました。あれなら、月森先輩も好きかもしれません」<br />
　ちゃんと考えてはいたらしい。<br />
「合奏かぁ&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
「いいんじゃない？　生演奏は無理だけど、ＣＤとかに録音してさ。喜ぶんじゃない？」<br />
「そうかな？」<br />
　だんだん乗り気になってくる。<br />
「うんうん。火原さんとか柚木さんとかにも声をかけてさ。アンサンブルメンバー大集合ってことで。楽しくなってきたー！」<br />
　天羽のテンションもどんどん高くなっていく。<br />
「よし！　あたしみんなに声かけるからさ！　香穂は曲を選んでよ。月森君が好きそうなやつ！」<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;楽しそうです」<br />
　志水も微笑んでいる。<br />
「決まり！　じゃ、そういうことで！！」<br />
<br />
　天羽の行動力は毎度の事ながら舌を巻く。<br />
　翌日の放課後には、一人も欠かすことなくアンサンブルメンバーを揃えた。土浦に加地、志水と冬海はともかくとしても、火原と柚木さえ集合してくれている。<br />
「なんだか、このメンバーで集まると、思い出しちゃうね」<br />
　火原がそう言ったが、まったくの同感だ。<br />
　ただ、ここに月森だけがいない。<br />
　そのことをよりいっそう強く感じてしまう。<br />
　みんなで集まることが出来て嬉しいと思うのに、同時に泣きそうな気分にもなる。<br />
「それで？　何を弾くんだ？」<br />
　この面々の中で一番面白くなさそうな顔をしている土浦が促す。<br />
「うん。それはもう決めてきちゃったの&hellip;&hellip;&hellip;断りもなしにごめんなさい」<br />
　先に、香穂子はみんなに頭を下げる。<br />
「そんな、日野さんが謝ることじゃないよ」<br />
「そうだね。それに、日野さんが選んだのなら間違いも無いだろうし。何より、月森君はそのほうが嬉しいだろうから」<br />
　加地と柚木が次々に言う。その言葉に、香穂子はホッと表情を和らげる。<br />
　曲目は「ケンタッキーの我が家」と「ハンガリア舞曲第５番」。いずれも、アンサンブルで弾いたことのある曲だ。充分な練習時間が取れない以上、すぐに合わせられる曲となると、かつてみんなで散々練習した曲から選曲せざるを得なかった。<br />
　そして、それはいずれも、ヴァイオリンは香穂子の一本だけ。<br />
　本当は、月森が好きな曲を選びたかった。だが、それには月森がどうしても必要だった。今、ここにいない彼が―――。<br />
「よし、それじゃあ始めるよ～！」<br />
　録音役を買って出た天羽が仕切る。<br />
「ちょっと待て！　少しくらい合わせる時間を寄越せ」<br />
　慌てて、練習室のピアノの前に座る土浦が叫ぶ。<br />
「そうだね。僕もフルートを手にするのは久しぶりだから、少しは練習したいかな」<br />
「練習室、もう一つ借りられたら、それぞれに練習出来るんだけどなぁ&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　その難しさは去年まで高校生だった火原も知っているから、それは単なるぼやきに終わる。<br />
　しかし、練習はさほどの時間を要しなかった。ともかく、一度は必死で練習した曲なのである。勘を取り戻すもの早い。<br />
　先に「ケンタッキーの我が家」を録る。<br />
　引き続き、少しの練習を挟んで「ハンガリア舞曲第５番」。<br />
「オッケー？」<br />
　天羽の声に、全員が満足げに頷く。「ハンガリア舞曲第５番」が好きな志水はより嬉しそうに微笑んでいる。<br />
「ありがとうございました！」<br />
　香穂子ががばっと頭を下げた。そして、そのまま暫く上げられなかった。<br />
　こみ上げてくるものがあったからだ。<br />
　演奏をしているとき、当時のことを思い出してしまった。何度も繰り返した練習のこと、解釈の違いで衝突したこと。曲を奏でたときに付随する思い出はまだ生々しい。そして、その時に月森と交わしていたやりとりのことを、連想せずにはいられなかった。月森とは一緒に練習しなかった、この曲でさえ、月森のことを思い出させる。<br />
　何もかもが、香穂子を月森へと導く。<br />
　そうなると、堪えられなかった。<br />
　まだ、この体は月森がいないことに慣れてはくれない。<br />
「月森先輩、喜んでくれるといいですね」<br />
　冬海が柔らかい声と一緒に、香穂子の腕に触れる。<br />
「うん&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　ようやく顔を上げると、少し滲んだ視界の中に、香穂子を優しく見つめる顔がたくさんあった。<br />
　急に恥ずかしくなって、顔を赤らめるともう一度だけ「ありがとうございます」と口早に言って、目元を拭った。<br />
「じゃあ、帰ろうか！　せっかくみんな集まったんだし、どこかで何か食べて帰らない？」<br />
　火原の提案に全員が乗った。<br />
　だが、香穂子だけはそれに「遅れて行きます」と応える。<br />
「もう少し、やっておきたいことがあって」<br />
「え？　それなら、付き合うよ？」<br />
　すかさず名乗りを上げるのは加地である。<br />
「ううん。一人で平気だから」<br />
　笑顔で加地の申し出を辞退して、香穂子は全員を見送る。<br />
　急に人口密度が減って、しんとした練習室に残ったのはヴァイオリンを抱えた香穂子だけ。<br />
　ピアノの上には天羽から預かった、レコーダー。<br />
　二、三度深呼吸をして、録音スイッチを入れた。<br />
　構えたヴァイオリンで奏でるのは「愛のあいさつ」。<br />
　最後に、一人で弾く曲を入れようと、決めていた。そしてその曲は「愛のあいさつ」以外になかった。<br />
　何度も、何度も。この曲はもう数えられないくらい、弾いてきた。だから、楽譜を見なくても弾くことが出来る。<br />
　目を閉じて、曲に身を委ねる。<br />
　この曲を、初めて月森に聴かせた時のこと。それから、一緒に弾いたあの日のこと。溢れる想いと共に、今度は涙が流れるのを止められなかった。<br />
　ただ、嗚咽だけは堪えた。それは、ヴァイオリンの音を不安定にする。それだけは、駄目だ。月森に聴かせるのだから、それだけは絶対にならない。<br />
　だが、最後の音を弾いて、その余韻が消えてしまった後にはもう留めていられなかった。<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;っく」<br />
　小さな、本当に小さな声が零れてしまう。<br />
（いけない。まだ録音してる&hellip;&hellip;&hellip;）<br />
　涙を拭うのもそのままに、レコーダーのスイッチを押す。<br />
　そして、今度は遠慮無く泣き始めた。<br />
　月森が留学のために旅立ってから、ことある毎に、彼がいないことを認識していた。認識させられてきた。それは、うまく音を出せなくて相談しようとしたときや、楽譜を見に行ったときや、クラシックコンサートがあるというポスターを見たときなど。日常生活のほんの一部でふと、月森の不在を感じて寂しかった。<br />
　だが、今、月森がいないことが、全て刃となって全身に突き刺さっているような、そんな痛みさえ覚えている。痛くて、苦しくて、涙が止まらない。<br />
　どうして、傍にいないのだろう。こんな時こそ、傍にいて欲しいのに。傍にいてくれたら、それだけで泣き止むことができるのに。<br />
　いつしか、床の上にへたり込んで、泣いていた。<br />
　泣いても泣いても、涙は涸れない。<br />
　頑張ろうと思った。それに偽りはない。月森も遠い地でより腕に磨きを掛けていることだろう。それに劣ることのないように、香穂子も頑張るのだと、そう言って月森を送り出した。そのことに間違いは無い。<br />
　それでも。<br />
　頑張ろうと思うことと、寂しいと思うことは、乖離していた。何を持ってしても、その間を埋めることは出来ない。<br />
<br />
　窓から、赤く染まった光が差し込む頃になって、ようやく香穂子の涙は途切れた。<br />
　泣きすぎてぼうっとする。目は明日を待たずに腫れているようだ。何だか、顔も涙でごわごわしているような気がする。<br />
「顔、洗おうかな&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　ヴァイオリンを片付けて、荷物を抱えると真っ先にトイレへ向かう。<br />
　涙の後を洗い流して、鏡の中に見た自身の顔は、それはそれはみっともなかった。目は充血しているし、やはり腫れぼったい。<br />
　何より情けない表情が思いっきり出ている。<br />
　もう、みんなは帰ってしまったかもしれない。それを残念に思うが、泣きはらした顔でみんなの前に出るのも躊躇われる。<br />
「もう！」<br />
　ぱちん、と両頬を手で挟むと鏡の中の香穂子を睨み付ける。<br />
　それから、トイレを後にする。携帯電話を取りだして、着信を確認すると、天羽と冬海からメールが一件ずつ。いずれも、無理してこなくてもいいから、というような内容だ。香穂子のことを見透かして心配してくれているその気持ちが嬉しい。<br />
　心配を掛けたことを申し訳なくも思うが、有り難く言葉に従わせて貰うことにした。短い返信をそれぞれに返して、ヴァイオリンを抱え直すと、校舎を後にした。<br />
　夕闇が迫る空を仰ぐ。<br />
　この空と繋がっている、遠い空の下で同じように月森は空を見上げることがあるのだろうか。そこで、月森はどんな音色を響かせているのだろう。耳をすましても聞こえない月森の今の音色は、どんなふうに響いているのだろう。<br />
　そして、鞄の中にしまったレコーダーを思い出す。<br />
　今の香穂子の音色。<br />
　想いを詰め込んだ音。<br />
　それは、月森に響くだろうか。<br />
　この想いは、月森にちゃんと届くだろうか―――。</span></p><br /><a href="https://vbjcb.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E6%A3%AE%E8%93%AE%C3%97%E6%97%A5%E9%87%8E%E9%A6%99%E7%A9%82%E5%AD%90/%E9%9F%BF%E3%81%84%E3%81%A6%E3%80%81%E9%9F%BF%E3%81%84%E3%81%A6" target="_blank">あとがき</a>]]>
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    <category>月森蓮×日野香穂子</category>
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    <pubDate>Sat, 23 Apr 2011 19:44:08 GMT</pubDate>
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